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モノガタ x L'Express
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こんにちは。7月14日(火)です。
今週のメールマガジン モノガタ レ クスプレス をお届けしています。
 
#136 < 敵は漠然としていてもOK!? > 話者のテーマの絞りがポイント // スリラー小説なのに敵が見えない不思議
// スリラー小説なのに敵が見えない不思議

敵って、感情をぶつける対象なの?

おかげさまで本を読めない状況を脱しました。先週メールでお届けしたスリラー小説作家 デビッド・バルダッチとは別の作家を読み終えました。

今度は ITコンサルタント出身の作者、ダニエル・スアレスです。このダニエル・スアレスについてもいくどか本メールマガジンでテーマにしています。彼の得意とするジャンルは テクノ・スリラー。この作家、わたしは好きです。ハイ。

現在6作が発表されており、4作を読み終えました。今回のお話は3作目の『 Kill Decision 』について。

その前にちょっと脱線(不遜な物言いに受け止められてしまうかもしれません...所感です)。デビュー後の2作シリーズは、小説家というよりもITコンサルタントが書いたお話という雰囲気が強かったです。言葉遣いではITの専門用語が溢れていたり、登場人物の呼び名が正式名だったと思ったら、次の瞬間には愛称で記されていたりと混乱しました(笑)おまけに登場人物がたくさん出てきて、その誰もがキーとなる人物なのか、違うのかが皆目検討がつかない状況。

それに比べると、この3作目『 Kill Decision 』はとても読みやすかったです。

しかし、表現や物語構成の違いはあれども、1~3作目、5作目はどれも同じテーマで統一されています。

それは "人間らしさ(humanity)" についての問いかけです。

このような大きなテーマに絞り込みをかけると、物語りに敵がいなくても済んでしまうかもしれない...

というのが今回の内容です。

 

物語りの3本柱 正義・悪者・ガイド

久しく物語りの構成にふれていなかった(汗)のですが、物語りには3つの柱があります。

正義(主人公/お客さま)、悪者(課題など)、ガイド(物語る、あなた)

です。

一般的に物語りは、主人公の変化や成長があり、それが読み手との共感を生み出すベースになります。

この主人公の変化や成長を促すのが、悪者です。文字通りの悪者でもよいのですが、主人公自身の葛藤だったりの課題でもOKなのがストーリーテリングの醍醐味。

そして、この『 Kill Decision 』。人格をもった悪者は登場せず、でも、主人公たちは戦っているというなんとも不思議な小説に仕上がっています。

本作が発表されたのが2012年。翌2013年には同じタイトルにて著者は TED Talk でスピーチをしています。

参考までリンク)
人殺しの決定をロボットに任せてはいけない
https://www.ted.com/talks/daniel_suarez_the_kill_decision_shouldn_t_belong_to_a_robot?language=ja

スピーチは軍用無人機 ドローン について。これらドローンに人工知能を搭載させて、殺傷する判断を許してはいけないというのがそのテーマ。

私はこの TED Talk から本作『 Kill Decision 』のテーマを知り、この本を手にとった順番です。読み終えての感想は、TED Talk から想像ができない、とても良い意味で期待が裏切られる話の構成だったなというものでした。

テクノ・スリラーというジャンルですので、スリルを生じされる悪者が途上してしかるべし。実際に著者の1、2、5作目は明確に ザ・悪者 が出てきました。

しかしながら、本作においては、いわば "テクノロジーの周辺" が敵になっています。話の構成上、ドローンが敵では有るのですがあくまでドローンは象徴に過ぎないのです。

誰が悪い、かれが悪いではなく、テクノロジーにまつわる相対や利害関係が悪者なのです。

主人公たちは壮絶な闘いを繰り広げるのですが、いったいぜんたい誰と戦っているのか

読了後、ジワジワと「はて!?」と不思議な感覚に包まれます。敵らしい敵がいないと、物語りの読了が摩訶不思議になるのです。

 

とはいえ通底するテーマが必要

作者ダニエル・スアレスは、どのような"敵"を想定していたのかを想像すると話の味わい方が増します。

なぜ、どのような敵を想定したのかを想像できるのかというと、いままで読んできた作品たちに一連テーマを感じるのです。

それは冒頭にも挙げた、 "人間らしさ(humanity)" についてのメッセージです。

技術が進展すると、人間にはどのような変化が生じるのか。また、それらに利害関係を持つ者たちが現れるのですが彼らの人間らしさはどこにあるのか。

まさしく元ITコンサルタントが、現場で体感してきたであろう矛盾や希望。これが彼の創作活動に火をつけているのではと思います。

単純に白黒・正義悪としてしまえば、読者はわかりやすい。ただ、ダニエル・スアレスが世に出す小説のジャンルは単なるスリラーではなく、"テクノ・スリラー"です。

読者にはまだ見ぬ技術について想像を膨らませてもらうことも楽しんでもらいたいはずで、白黒はつけず、将来に期待を託しての悪者なしという選択だったのではと思います。

ザ・悪者がいなくとも、"人間らしさ"という人生に通底する関心や問いかけは読者自身に向けられる。そして、その関心や問いかけは読者自身が抱える葛藤や課題とつながり、読書体験と共鳴するのではないでしょうか。

物語作りとしては、相当にハイレベルな構造です。が、ひとつの物語りの在り方として新鮮なのでご紹介をさせていただきました。

人間らしさ(humanity)とはなにか、という大きな問いかけ。日常ではなかなか考えられないテーマです。だから物語りで問いかけることができるのです。


 

コーヒーブレイク

本作『 Kill Decision 』。主人公のうちのひとりは昆虫学者です。それが、人工知能やドローンとあのように結びつくとは...

ダニエル・スアレスは小説の巻末に 参考文献 を載せるという珍しいスタイルを持っています。しかし、これがあって著者のテーマに対する研究力の高さ、熱心さも話にしっかり織り込まれているなと感心するばかりです。

そして変わらずメッセージは "テクノロジーの進化における、人間らしさへの問いかけ" にある。素敵な作者と出会えてありがたいなと思います。


:::編集後記:::
我ながら出先での方向音痴っぷりがヒドいなと思う一週間でした。方向音痴って、一種、勝手な思い込みのすさまじさかもと振り返っています(失笑)まわりの人たちに迷惑かけてないかなぁ。すいません、ありがとうございます。
 
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