Lobsterrは、毎週届くニュースレターです。世界中の面白いビジネスやカルチャー、未来の兆しになるようなニュースを集め、感想や考えを添えてお届けします。
Outlook(今週の注目トピック)に続き、What We Read This Week(今週読んだもの ※必ずしもニュースではありません)。そして最後に、Cool Things of the Weekをご紹介します。こちらは週によってあったりなかったりします。
Outlook
Words, Words, Words.
ことばとブランド

雑誌『POPEYE』の元編集長・木下孝浩さんがファーストリテイリングに入社したというニュースは、雑誌編集に携わる者として驚きながら読んだことを覚えている。果たして木下さんはユニクロで何をするんだろう?とずいぶん気になったものだが、それから詳しい情報は出てこず、いつしか電撃移籍のこともほとんど忘れかけていた矢先に(どちらかといえばミランダ・ジュライのTシャツのほうが気になっていた今日この頃)、『Forbes JAPAN』が柳井正さんに行ったインタビューのなかで久しぶりに木下さんの名前を見かけることになった。柳井さんは木下さんに期待することを答えるなかで、「編集」と「ブランディング」の関係をこう語っている。
「そういう『編集者』の視点で、ユニクロの服やブランドに磨きをかけてほしい。何かをつくるということは、何を選んで何を捨てるかを決める『編集』みたいなものだと思いますから」

昔からコピーライターという職業があったように、あるいはいくつかのメディアがクリエイティブエージェンシーをもっているように(MonocleとWinkreative、ViceとVirtue、Kinfolkとouur…etc.)、言葉や編集の力がブランディングに活かされるのはいまに始まったことではない。しかし今後は、ブランドをつくるにあたって「言葉」の重要性はますます増していくだろう。
なぜか? 若い消費者たちは、プロダクトやサービスそれ自体の価格や性能よりも、それをつくるブランドの価値観ストーリーを重視してものを選ぶようになってきているからだ。いま、ビジネスにおいてデザインの力が重要だといわれているのと同じ理由で──すなわち企業とユーザーの関係が「一度の購買」によって切れなくなったデジタル時代において──、ブランドは自らのストーリーを絶えず語っていかなければいけないのである。AllbirdsやWarby Parker、CasperにhimsといったいまをときめくD2Cスタートアップのブランディングを手がけるクリエイティブエージェンシー・Partners&Spadeに「ライター」が所属しているのは、きっと偶然ではないのだろう。

予想。木下さんに続いて、名だたる編集者やライターがブランド企業やクリエイティブエージェンシーに引き抜かれるケースはこれから増えていくだろう。そしていま、「デザイン経営」宣言を契機にして「デザイナーを取締役に入れるべきだ」という議論が生まれているように、いずれ「編集者やライターを取締役に入れるべきだ」という声があがるようになるだろう。CXOやCDOという言葉が普及したころには、「もうひとつのCEO=Chief Editorial Officer」や「CSO=Chief Storytelling Officer」という言葉を聞くようになるかもしれない。──Y.M

What We Read This Week

全米一とも称されるVC・アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)には「大手テック企業のCEO経験者、あるいは創業者しかパートナーになれない」というルールがある。しかし、コニー・チャンが初めての例外として認められた。
a16zがコンシューマーテックのトレンドを上手に掴めているのは彼女の存在のおかげ。シリコンバレーにおける中国トレンドの語り部、オピニオンリーダーのひとりでもある。テックの震源地が中国に移りつつあるのを見抜いたのも彼女。マクロの消費トレンドやテクノロジーの地政学が大きくシフトするなか、a16zはルールを曲げてまで大きなトレンドに適応しようとしている。
Meet Silicon Valley's 'China whisperer'

1億円以上の資産をもつ富裕層は、2011年の2,970万人から2018年は4,200万人に増加。ただ、それに伴ってアートの消費はそれほど増えていない。644億ドルから674億ドルへと5%程度の増加に留まる。“Uncultured”(教養や文化の素養がない)なお金持ちが増えているだけとも見える。アートの世界は一部の超富裕層の消費がマーケットの大半を占めている。
There are Millions of New Millionaires, but Not at Art Sales

先週一般オープンしたアメリカの不動産開発史上最大の複合開発プロジェクト「ハドソン・ヤード」。『ニューヨーク・タイムズ』や『ニューヨーク・マガジン』などの地元メディアや『Dezeen』などの建築・デザインメディアを見ても批判的な記事が目立つ。どの記事もこのプロジェクトを「ニューヨーカーのためのネイバーフッドではなく、超富裕層のための開発だ(Billionaire's Playground/Fantasy/Gated Community for top 0.1%)」などと揶揄し、このエリアが地元民にとって遠い存在になってしまうことを懸念している。
グラスルーツ活動を発端に大成功を納めたハイライン・プロジェクトに乗っかるかたちで、近年周辺エリアで不動産開発が活発に行われてきたが、これは単なるジェントリフィケーションを超えてしまったのではないか。この記事では、「屋上デッキから見えるニューヨークは素晴らしい。わたしは気づいてしまった。このデッキからはハドソン・ヤードが見えないからだ」という皮肉的なコメントで締められている。
Hudson Yards Is Manhattan’s Biggest, Newest, Slickest Gated Community.

トランプ政権によって米企業が移民を雇用するハードルが高くなっているため、テック企業はカナダで外国籍人材の雇用を進めている。米企業に勤める400人以上の採用担当者にアンケートを行った「Envoy Global Immigration Trends 2019」によれば、65%が「カナダの移民政策のほうが米国よりも優れている」と答え、38%が「カナダに支局をつくることを考えている」、21%が「すでにカナダにオフィスを構えている」と答えた。
不動産企業のCBREの調査によれば、トロントはサンフランシスコ、シアトル、ワシントンD.C.に続き、世界4位の「テック人材が集まる街」である。そしてオタワでもテック人材の雇用が急速に進んでいるという。「Next Big Thing」はカナダから生まれるかもしれない。
Canada is becoming a tech hub. Thanks, Donald Trump!

Alphabetの子会社・Sidewalk Labsがトロントのウォーターフロントエリアの都市開発を手掛けているように、最近テック企業の都市開発事業への参入が目立つ。The We Companyがスマートシティプロジェクトの事業を開始することが発表され、グーグル傘下の地図サービス・Wazeの元エグゼクティブ、ダイアン・アイズナーが代表に就任した。下記の記事は、アイズナーとともに共同創業者として就任したアーティスト・デザイナー・フューチャリストのドロール・ベンシェトリットについてのもの。The We Companyは、メンバーシップ型(?)の未来都市を構想するためにビジネスとクリエイティブ人材の両方を採用したことになる。
Dror Benshetrit is Joining We Company as Co-Founder of New Smart Cities Initiative

GDPは1940年以降、経済力を測るための指標として主要な地位を占めてきた。しかしインターネットやソフトウェアが経済の主要な地位を占めるなか、それらの効用やメリットを正しく捕捉はできなくなってきている。ソフトウェアが既存のプロダクト(例えばカーナビ、時計、電卓、新聞)を代替するとき、GDPの数値には下方圧力がかかるのみ。
これまで「グリーンGDP」や「GNH(国民総幸福量)」などさまざまな代替案が出されるなか、『機械との競争』の著者として有名なエリック・ブリニョルフソンが、デジタル財や新しいテクノロジーを考慮にいれた「GDP-B」というアイデアを提案。彼の考案した指標によると、Facebookだけで0.1%程度GDPを押し上げる。
The measure of our stuff

現代で最も成功しているモデルのひとつ「プラットフォーム型ビジネス」。プラットフォームは、立ち上げ初期は開発者やサービスを引き寄せる。一方、プラットフォームとそれを使うサービスがだんだん大きくなると、両者は協調的関係から競争的関係に変化する。SpotifyとAppleのいざこざもその一例。この問題を解決し、長期間にわたる協調関係を目指すのが「Cryptonetwork」という概念。この概念は、昔ながらの「Corporatives/協同組合」のコンセプトと多くを共有する。
協同組合が他の企業体と異なるユニークなポイントは、第三者ではなく、その事業を行なっている主体自らが出資しているという点。その一例として有名なのがVisa。設立当初、Visaは加盟する金融機関同士と対等な立場でブランドを管理・運営。プラットフォームとその参加者が競争関係になることなく、長期にわたって協調関係を築くことができた。
Corporatives型組織は、ガバナンスや機動力の課題があるが、現代では、スマートコントラクトやオープンソースコードなどでそれらを解決可能。Corporativesのアップデート版がCryptonetwork。会社や組織のかたちがこれから変化し、より協調的な組織体や取引関係が増えていく。
Past, Present, Future: From Co-ops to Cryptonetworks

サラダユニコーンのSweetgreenと米NPO・FoodCorpsが、学校のランチをもっとヘルシーに、かつローカルな食材を使ってつくるためのプログラム「Reimagining School Cafeterias」をスタート。プログラムには生徒も参加し、よりよいメニューやカフェテリアをつくるアイデアを子どもたちとともに考えていく。Sweetgreenはこの取り組みに100万ドルを投資しており、2020年までに50の学校に広げる計画だという。
Sweetgreen is redesigning school lunches to make them more healthy–and more fun

Netflixで3月15日から配信されている、デヴィッド・フィンチャーによる"大人のSFアンソロジー"「ラブ、デス&ロボット」の『WIRED』UK版による辛口レビュー。「ソニーの切り札」「目撃者」「わし座領域のかなた」といったエピソード(とそこで描かれるセックスシーン)を挙げながら、その内容が「うんざりする男性目線」に偏っていると評されている。「巨額な制作費でつくられたSF作品の多くが、暴力的で男性的な世界に陥りがちだ。そして気が滅入ることに、『ラブ、デス&ロボット』も例外ではない」
Netflix's Love, Death & Robots is sexist sci-fi at its most tedious

身体障害者のための衣服を「Adaptive Clothing」と呼ぶらしい。いままでスモールビジネスが中心に商品展開してきた領域だが、新たなプレイヤーが参入してきている。デヴィッド・ボウイやメリル・ストリープなどの衣装を手がけてきたファッションデザイナーのイジー・カミレリが今月発表したコレクション「IZ Adaptive」やトミー・ヒルフィガーの「Tommy Adaptive」など、大手ブランドがコレクションを展開し始めている。ある統計調査によると、イングランドとウェールズの人口の5人に1人が何かしらの身体障害をもち(米国も同じくらい)、社会性だけではなく、経済的にも無視できないマーケットサイズがある。「Adaptive Clothing」、誰がネーミングを考えたのだろう。
Why are there more clothing lines for dogs than disabled people?

毎号あるトピックについてのトリビアを紹介する『Quartz Obsession』。3/16配信回は「ファクトチェッキング(Fact-checking)」について。インターネットが情報の伝達を複雑にし、ウェブ上のフェイクニュースがオフラインの生活に多大な影響を及ぼす時代だからこそ、ウェブ以前からあったオールドスクールスキル「ファクトチェッキング」が注目されている。これからは21世紀の重要なスキルとして、われわれが「ファクトチェッカー・マインドセット」をもたないといけないのではないか。
938個の質問 = ローレンス・ライトが『ニューヨーカー』にサイエントロジーについての3万単語からなるロングリード記事を寄稿した際に、サイエントロジー教会に確認した質問の数。
Quartz Obsession: Fact-checking

『ニューヨーク・タイムズ』のテックレポーター、マイク・アイザックの最近のお気に入りのソーシャルメディアは、古くて新しいニュースレター。アイザックも『The Dump』というニュースレターを運営している。ザッカーバーグが、Facebookはオープンでパブリックなニュースフィードからよりプライベートな会話に注力すると発表したように、より多くの人がプライベートなコミュニケーションにシフトしている。ニュースレターの運営を簡単に行えるツールを提供する、SubstackやRevueなどのスタートアップ企業も出てきている。作家でデザイナーのクレイグ・モドは、「メールのインボックスはソーシャルメディアよりも魅力的なミディアムになってきている」と語る。
Switching to a New Social Network That Isn’t Really New at All 

アメリカで中古アパレルは2兆5,000億円ほどのマーケット。その成長はめざましく、アパレル産業全体と比較し21倍のスピードで拡大している。2021年には5兆円を超えると予測されている。10年以内にファストファッションの1.5倍のサイズになる。ミレニアル世代やZ世代は、中古品を使うことにためらいはない。ワードロープを新鮮に保つために積極的に中古品を使う。一定回数使ったら、“リタイヤ“してもらう(メルカリを多用するような消費スタイルとも似ている)。もちろん、「コンマリ」もその流れに拍車をかけている。製造→廃棄というプロダクトのジャーニーが変化して、より循環的な経済へ。
Thanks, Marie Kondo! The resale market is becoming bigger than fast fashion

中国でストリートファッションやヒップホップカルチャーが勢いを増している。中国のミレニアル世代は約4億人。ハイブランドへの消費も一巡し、よりアイデンティティやコミュニティへの帰属感に訴えかけるカルチャーやファッションへの傾倒が強まっている。中国のストリート系のブランドは、その他のジャンルと比べ3.7倍も成長。中国のヒップホップカルチャーのユニークなポイントは、それがアメリカからではなく韓国から輸入されている点。中国国内では、韓国の若者たちの流行への注目も非常に高い。
Controversial Hip-Hop Stars Keep Brands Guessing

Cool Things of The Week

元『Recode』編集長でジャーナリストのダン・フロマーが、ニュースレターを軸としたメンバーシップ型のメディア『The New Consumer』をスタート。ロブスターのメンバーもさっそく購読しています。
The New Consumer

先週末ロンドンで100万人以上が参加したブレグジットの反対デモ「the People’s Vote march」(ロブスターの知人も多数参加していた)。そこで使われていた自作バナー集。とてもクリエイティブで、イギリスらしいユーモアに富んでいます。
'Fromage not Farage': the best signs and sights on the People's Vote march

 

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