Lobsterr Letterは、毎週届くニュースレターです。世界中の面白いビジネスやカルチャー、未来の兆しになるようなニュースを集め、感想や考えを添えてお届けします。
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You’ve Got Mail
ニュースレターの静かな革命

良質な思考に良質な情報は不可欠。

ベネディクト・エヴァンスというテック業界のThought Leader(思想的リーダー)のニュースレターをずっと前から購読している。毎週月曜、彼のニュースレターが届く。SNSを閉じ、日々のニュースや出来事に対して彼が添える、ささやかな文脈に触れると、自分の視座の広がりと理解の深まりを感じる。

その他にも、いくつか面白いニュースレターを購読している。アンドリュー・チェンのニュースレターもテック業界の革新的ビジネスモデルについて深い理解を与えてくれる。まだ購読を始めたばかりだが、スコット・ギャロウェイのそれも素晴らしい。週に1回か月に数回、メールの受信箱に届くニュースレターというメディアは、それぞれの書き手のキャラクターが滲み出て、不思議な親密さを与えてくれる。聡明な友達にときどき会って話を聴くようで、そのリズムとインタラクションが非常に心地良い。

反対に、FacebookやTwitterでは、あらゆる方向からニュースやアップデートが流れてくる。PV至上主義に陥ったメディアや個人による、キャッチーなタイトルと浅薄な内容が組み合わさったコンテンツに溢れている。そこでは、多いことや速いことが価値だ。FOMO(Fear of Missing Out=取り残されることへの恐れ)に訴えかけ、ニュースはもはやノイズと化している。

そんななか、ニュースレターは、深くて、遅くて、静かで、意味がある思考を与えてくれる。個人的には、ニュースレターを読むことは、ヨガをすること、あるいはソファに座って考え事をしたり、海辺に行って景色をじっと眺めたりするモードの延長にある。「良質な思考に触れている」という自信に溢れ、JOMO(Joy of Missing Out=追いすぎないことの喜び)を感じさせてくれる。

Lobsterrを始めてからの数カ月の間に、さまざまなキーパーソンたちがニュースレターが始めており、新しいメディアの実験として、このフォーマットを選んだのは間違いではなかったかもしれない、と思うことが増えてきた。

元『Recode』編集長のダン・フロマーは、ニュースレターのパブリケーション『The New Consumer』を開始。年間200ドルで購読でき、週2回のペースで届く「Executive Briefing」がコアプロダクトだ。ニュースというより、「そこから何が読み取れるか」というインサイトを重視している。さらに大手メディアにおいても、読者の新たなエンゲージメントを獲得する手法としてニュースレターを始める動きが活発だ。『Fast Company』は「Compass」という新たなニュースレターをスタート。「ただのリンクのかき集めや特報ニュースのニュースレターとは一線を画し、トピックについての深い分析を通じ、読者の理解を深め、新たな視座を与える」とする。『ニューヨーク・タイムズ』も育児についてのニュースレターを開始している。

こうしたニュースレターの創刊ラッシュは、先週のOutlookでも書いた通り、「Time Well Spent(有意義な時間)」の流れを受けたものなのだろう。もう少しアンテナを広げると、ニュースレターというフォーマットに限らず、ニュースのノイズ化に対して「スロージャーナリズム」というキーワードを標榜する企業が、メディアの新しいかたちを模索するための実験を次々と始めているのがわかる。

例えば、『Tortoise Media』というイギリスのメディアは、どんなに騒がしい日でも1日に5個までしか記事を配信しない。「際限のないニュースフィードの解毒剤」と自らを形容する。Kickstarterで大きな支持を集め、約6,000万円を調達。加えて、8人の投資家から資金を調達したばかりの新興メディアだ。コペンハーゲンの『Zetland』に至っては、記事の配信は1日2つだけ。平日の早朝5時にメールが届く。こうすることで、読者は新しいニュースを求めて何度もサイトを訪れなくて済む。さらにすべてのコンテンツが、書き手の個人的なメモと一緒に、音声フォーマットでも配信される。デンマーク語のため理解はできないが、『Zetland』のコンテンツからは記者個人のキャラクターと価値観が見え隠れする感じがしてならない。

この流れに乗ったメディアを挙げると、ドイツの『Krautreporter』、スイスの『Republik』、イタリアの『Il Salto』、フィンランドの『Long Play』、オランダの『De Correspondent』など枚挙に暇がないが、ここではもうひとつ例を挙げよう。今年始まったばかりのニューヨークを拠点にする『The Slowdown』というメディアだ。このメディアのディスクリプションは、そのままコピーしてLobsterrのAboutページに載せたいと思うくらい、素晴らしいステートメントになっている。

We believe stories—like food—should not be flash-fried and “binged.” They should, instead, be made carefully, thoroughly enjoyed, and feed the heart and the mind. Positioning conversation over presentation and questions over comments, we distill and synthesize fractured ideas, fuel creativity, and inspire wonder.

ストーリーは、さっと表面をなぞったり、ハマらせるようなものであってはならない。ストーリーは、丁寧につくられ、満遍なく楽しむことができ、心と頭を豊かにするものでなければならない。プレゼンテーションよりカンバセーションを、コメントより質問を大切に扱おう。わたしたちは、バラバラのアイデアを統合し、創造性に火をつけ、知りたいと思う気持ちを喚起する。


こうしたメディアに共通しているのは、基本的に広告モデルではなく、有料のサブスクリプションをベースにしているという点だ。読者との距離感が非常に近いのもこうしたメディアの特徴で、読者と積極的に意見を交わし、イベントも行っている。

ニュースレターに話を戻して、そのビジネスモデルにも目を向けると、スロージャーナリズムのメディアと同様にサブスクリプションが基本となっている。ここ数年で、SubtrackやPatreon、Revueといった、ニュースレター専用のプラットフォームが登場している。こうしたプラットフォームでは、課金や購読者管理のツールが提供されており、ニュースレターを発行したい人は、ただコンテンツをつくるだけでいい。Subtrackは毎月40%ユーザーを増やし、Patreonも2017〜2018年にかけてユーザー数が倍になった。そして、文章を書く人にとっては、こうしたプラットフォームを通じて提供される有料ニュースレターは、経済的自立の方法としての地位を確立しつつある。十分な広告収入を得るには何十万人、何百万人にコンテンツを読んでもらう必要があるブログと比べて、ニュースレターで生計を立てるために必要な読者ははるかに少ない。月に1,000円払ってくれる読者を1,000人集めることができれば、十分な収入になる。Subtrackのトップ12人の稼ぎ頭の平均レベニューは、年間1,600万円以上だ。

こうした収入の真のメリットは、ライターたちに、本当に書きたいことに注力できる余力を与えることだろう。『ボストン・グローブ』紙の記者だったルーク・オニールは、ある記事についてちょっとした騒動を起こしたあとに同紙を辞め、自身で新しくニュースレターを始めている。このように強烈な個性と意見をもつ記者からさまざまなオルタナティブなメディアが生まれれば、言論の多様化、健全化に繋がるはずだ。街のオーガニックストアが、イオンやセブンイレブンにはどう足掻いても勝てないように、スローメディアが主流になることはないかもしれない。しかしこうしたメディアこそが、読者の視点と視座をアップグレードしてくれる。

そして、そうしたメディアと呼応しながら、読者であるわれわれ自身も変化する必要がある。『De Correspondent』を紹介したこの記事のタイトルに表現されている通り、メディア企業だけでなく、ニュースの受け取り手であるわたしたち自身も、さまざまな視点に触れながら、個々の現象から構造を読み解き、事実を深く読み解く目を肥やしていく責任があるように思う。その力は、親指でタイムラインをスクロールしているだけでは身につかないものだ。

フェイクニュースの問題は、拡散している側だけでなく、受け取る側も責任を負っている。読者のリテラシーが上がれば、メディアのレベルはさらに上がっていくはずだ。そして、新たなメディアの実験が始まり、社会全体の知性と感性が底上げされるという好循環が生まれていくのだろう。──Y.S

🙌What We Read This Week

もうマーケティングに「年齢」はいらない
55歳以上の高齢者を、まともでクールな広告で見かけたことがあるだろうか? 彼らが登場するのは、不動産融資、ED、安全なバスタブなどの広告だけだ。グローバルでは、2020年までに55歳の人口は5歳の人口を超える。都市部の消費成長の半分は高齢者が占めるといわれている。アメリカに限れば、2035年には、歴史上初めて高齢者が子どもの人口を超える。ブランドの視点からは、大きな可能性を秘めた市場だ。しかしアメリカの広告のうち、50代以上向けのものは5%しかない。
なぜこうした不均衡が起きるかというと、ブランドのマーケターが年齢を非常に重視するからだろう。しかし、年齢に関係なく教育、結婚、子育て、キャリアチェンジをすることが珍しくなくなり、同じ年代の間でもさまざまなライフステージが交錯するようになってきているのが実態。いわば、年齢とライフステージ/価値観は"decoupling(切り離し)"され、相関が薄れている状態だ。2018年の広告エージェンシー、マッキャンの調査によると、「起業する」「ロマンチックなデートをする」「また学校で学び始める」などの項目に対して、抵抗を感じた高齢者は非常に少なかったという。
それでも、マーケターは"次の世代"に執着する。確かに「新しいものを試そう」という気持ちが加齢とともに薄れていくのは事実だ。しかし、高齢になればなるほど可処分所得が上がり、ブランドに対してより誠実になるという事実は見過ごされがちだ。シャネルの売上の80%は50歳以上の人によるもの。アメリカでは、可処分所得の70%は55歳以上が占めるというデータもある。その額は150兆円にも達する。
マーケティング的な観点では、これからは年齢ではなく、「Attitude=人生に対する姿勢」に着目するほうがはるかに賢明だろう。マッキャンのレポートでは、「年齢関係なしの冒険者」「未来に不安を抱く人」「若さの探求者」など5種類の分類を設け、年齢ではなく、態度ごとにマーケットを分節する方法を提示している(ちなみにこのレポートでは、加齢についていちばん気にしていないのは70代。いちばん気にしているのは30代。死についていちばん恐れを抱いているのは20代、というおもしろいデータも示されている)。
こうした態度や価値観による消費者グループの分類は、デザインファームがよく実施する定性調査では常識になりつつあるが、まだまだマイノリティな整理の方法。今後、より深いレベルで消費者を理解し、届けるためのフレームとして、より多くの企業に普及していくことが求められるだろう。
Why marketing to seniors is so terrible

「死のウェルネス」を知っていますか?
自分の望み通りのかたちで死ぬことは贅沢なことになってしまったのかもしれない。70%の人は自宅で家族に看取られながら死にたいと思っているが、現実には、窓もない病室でチューブやモニターに繋がった状態で多くの人は亡くなっていく。NPO法人「The Global Wellness Institute」は、2019年のグローバル・ウェルネストレンド「死のウェルネス(Death Wellness)」について調査レポートを発行した。いままで、「死」や「死ぬこと」はネガティブで、ある種のタブーとして捉えられることが多かったが、それをポジティブに捉えていこうという新しいムーブメントでもある。
2003年頃から、看取りのドゥーラ(Death Doula)という新しい職種が生まれた。お産を支援する通常のドゥーラと同様に、看取りのドゥーラは患者が死に至る前から死後まで、患者とその家族をサポートする役割として機能し、その需要は年々増加している。NPO法人「The International End of Life Doula Association」は、この3年間で2,000人以上の看取りのドゥーラを輩出。その研修プログラムは常に満員だ。当初はニッチな職業だったが、2017年にはヴァーモント大学病院が看取りのドゥーラの正式な資格制度を設けるなど、メインストリームな医療現場においても取り入れられ始めている。
死や死に方に関する議論を通じて、その理解を深めることを目的としたフェスティバルやカンファレンス、ディナーパーティーなども近年増えてきている。そのひとつである「Death Over Dinner」のファウンダー、マイケル・ヘッブはこう語る。「会話のトピックがよりチャレンジングで、よりタブーだと思われていることになればなるほど、そのことについて話すことによって、意義のある人間らしいコネクションが生まれたり、自分が変わる機会を得ることができるんだ」。死や死に方についてより積極的に話し、理解を深めることを通じて、自分の人生における重要な決断のオーナーショップを取り戻すことができるのだ。
“I refuse to have a terrible death”: the rise of the death wellness movement

シリコンバレーは「最高の睡眠」を求めている
まず最初に、寝室の暗幕ブラインドを閉じる。晩ご飯を午後4時に食べて、6時以降は何も食べないし、何も飲まない。8時になったらブルーライトカット眼鏡をかける。寝室の温度を19.4℃に、電気毛布は21℃に設定する。8時45分に瞑想を5〜10分間行う。深波音がでるスリープマシーンをオンにする。そして、睡眠サポートデバイスの「Oura Ring」をつける。さぁ、寝る準備が整った。
少し大袈裟に聞こえるかもしれないが、これがシリアル・アントレプレナーのブライアン・ジョンソンが実践する「睡眠衛生習慣」だ。この生活習慣のおかげで、彼のソーシャルライフはないに等しく、妻は別部屋で寝ているが、彼はこのライフスタイルに価値を見出している。彼の深い睡眠の質は157%も良くなっているらしい。ジョンソンや他のシリコンバレーの起業家たちにとって、「睡眠は新しいフィットネスと化している」と言っても過言ではない。睡眠を管理することによって、日中のパフォーマンスを最大化できると彼らは考えているからだ。デバイスを通じてすべてを数値化し、パフォーマンスを計測・改善していく「Quantified Self」というムーブメントやシリコンバレーの生産性・成果主義の文化と、最高の睡眠を探求するスリープ・テックの台頭は相性がいい。ピーター・ドラッカーも「計測したものは改善する」と語る。
しかし、専門家のなかには、いま市場で扱われているデバイスでは睡眠を正確に測れていないと警鐘を鳴らす者もいる。2017年にシカゴの医大が発表したレポートでは、「Qualified Self」を通じて完璧な睡眠を求めることが逆に心理的な負担になり、実生活に支障をきたしてしまう事象を「オルソソムニア(orthosomnia)」と名付けた。10年前のフィットネス系のウェアラブル市場がそうだったように、スリープ・テックの製品や市場はまだまだ発展途上だ。Apple WatchやSNS、民泊がこの10年でメインストリームになったように、10年後には多くの人が自分の睡眠を計測しているかもしれない。
Sleepless in Silicon Valley

マインドフルネスの学校
ソーシャルメディアを使う現代の子どもたちは、他人の視点や広告が生み出す"理想の体型"といったイメージに日々晒されており、それはときに強いストレスとなる。英国の調査によれば、18〜24歳の若者の47%が自分の体型に関して強いストレスを感じたことがあるという。そんなデジタル時代の子どもたちが幼いうちから「ストレスに対処するためのスキル」を身につけられるよう、マインドフルネスのレッスンを学校に取り入れる動きが英国で始まっている。ウェルビーイングをカリキュラムの中心に据えるべきだと訴える慈善団体「Mental Health Foundation」や、教師たちによって立ち上げられたプロジェクト「Mindfulness in Schools」は、子どもたちに自らの思考や感情をマネジメントする方法を教えている。そして英国の教育省は、学校における最も効果的なメンタルヘルスプログラムを見つけるためのサポートを行っている。
瞑想やマインドフルネスが子どもたちの心の健康にどれほどの効果があるのか、その科学的な証拠はまだ十分に揃ってはいないものの、毎日ランチタイムのあとに10分間のマインドフルネスエクササイズを取り入れているバジルドンのチェリーツリー小学校では効果が出ていると、同校で生徒たちの心のケアを行うキム・ミルソンは語る。自分の心の調子に自覚的になること、自らストレスに対処できることが、現代において重要なスキルであることは間違いない。
Schools of thought: can mindfulness lessons boost child mental health?

NIKEがつくるサーキュラー時代のデザインガイド
NIKEとセントラル・セント・マーチンズが、「サーキュラー時代のデザイン」を行うためのガイドラインを作成。特設ウェブサイトでは、環境にやさしい素材やパッケージング、リサイクル可能なデザイン、ゴミを少なくする製造プロセス、プロダクトの寿命を伸ばすこと…etc.といった10の原則をケーススタディとともに紹介。ケーススタディにはNIKE自らが取り組んでいるもののほかにも、パタゴニアやリーバイス、Eileen Fisherといったさまざまなブランドの事例やインスピレーションとなるようなリファレンスが多数載っている。
「ベストプラクティスをまとめることで、より多くのアクションにつなげられればと思っています」とNIKEのchief sustainability officerのノエル・キンダーは言う。知識を自社のなかだけに留めるのではなく、シェアしていくことによって業界全体の新しいスタンダードをつくっていきたい、というNIKEの姿勢が伝わってくる。
Nike is launching a guide to sustainability for brands–get it here

ブランドたちがRedditにシフトする理由
FacebookとInstagramが多くの企業広告で溢れるようになってしまい、ブランドにとっては、ユーザのエンゲージメントを獲得するのが難しい状況になりつつある。そんななか、一部の先進的なブランドは、Redditという5億人のユーザーを抱えるSNSプラットフォームにターゲットをシフトしつつある。
RedditにはFacebookと異なり、「本物であることを重視し、スパム的なコンテンツがすぐに無効化される」というカルチャーがある。メンズウェアブランドのRhone(ローン)は、こうしたRedditの特徴に沿ったかたちで、透明性が高く、リアクティブにコミュニティとやり取りをする方針を徹底することで、Reddit内で大きな信頼を得ることに成功している。
ローンは、ブランドについて闇雲に広告を打つのではなく(こうしたやり方はRedditの文化に沿わず、すぐに締め出されてしまう)、コミュニティのスレッドに自社のトピックが現れたときだけプロダクトの紹介をする。その際も「プロダクトを売ろう」という姿勢で接するのではなく、ユーザーたちの質問に答え、フィードバックに徹するようなコミュニケーションをとる。Redditのメリットは、ブランドについての深い会話が行えること。Reddit上で強力なインフルエンサーが現れる日も近いだろう。
How fashion brands are tapping into the exclusive Reddit community

オルタナバーガーとアメリカンアイデンティティ
Beyond Meatの上場やImpossible Burgerの躍進など、食肉代替バーガーの話題は事欠かない。そんななか、マクドナルドが「Big Vegan TS」というメニューの試験販売をドイツで行うと発表。これで、すべてのメジャーなハンバーガーチェーンがこの分野に参入することになる。
しかし、食肉代替バーガーは、ひとつの食品の流行りとして片付けていい話ではない。ハンバーガーはアメリカが過去100年で"発明"した数少ない食べ物のひとつ。牛肉のハンバーガーの退潮は、アメリカにとっては、その文化や歴史の根幹にも関わるような話であり、他の業界でも起きている一連の「アメリカ文化の揺さぶり」の象徴的トピックのひとつともいえる。その他にも、自動車業界では、長らく市場を支配してきたSUVやピックアップトラックが不人気になり、いまや控え目な大きさで馬力の少ないEVが市場を席巻している。スポーツに目を向ければ、アメフトやバスケットボールは「暴力的なスポーツ」としてだんだん不人気になってきている。
このようにアメリカでは、国全体のアイデンティティとなってきたようなシンボルがだんだんと失われつつある。牛肉のハンバーガーはいずれ、ノスタルジックなものとして消費される存在になるのだろう。
The future of the burger

サミン・ノスラットと美味しいペルシャ料理の10大レシピ
イラン系アメリカ人のシェフで『ニューヨーク・タイムズ』のフードコラムニストでもあるサミン・ノスラットが、自身のルーツであるペルシャ料理を紹介。シチューやヌードル、サラダといった「10のエッセンシャル」がレシピとともに綴られている。
シェ・パニースでの修行を経て、現在は執筆や教育活動を行うサミンは、2017年の著書『Salt Fat Acid Heat』で一躍有名になり(本作はNetflixシリーズ「美味しい料理の4大要素」で映像化されている)、今年の『TIME』誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた人物だ。彼女の母親は1976年にイランからアメリカに移りサミンを産んでいるが、のちにベーカリーをオープンする母親が、祖国を忘れないために家庭のなかで日々追求したのが「食」だったという。「ニュースで何が伝えられていようと祖国は祖国であり、食ほど祖国のことを強く感じさせてくれるものはないということを、彼女は教えてくれたのです」とサミンは書いている。
だからこそ、『ニューヨーク・タイムズ』がサミンにこの企画を持ちかけたとき、彼女はレシピを考えるために母親にインタビューをしたのだった。そのほか20人以上のイラン人シェフやペルシャ料理の本を参考に10のレシピを完成。「このプロジェクトは、これまでにつくったどんなレシピコレクションよりもパーソナルなものに感じています」とサミンが書いているように、この記事は単なるレシピ紹介である以上に、彼女自身のアイデンティティをめぐるストーリーになっている。
Samin Nosrat’s 10 Essential Persian Recipes

世界をありのままに見つめるための「酸味」
近年アメリカでは、サワードウブレッドやキムチ、スウィッチェルなど、酸味が効いた食材や食品が流行っている。トップシェフや人気レストランでも同様の傾向が見られ、データエセンシャル社の調査によると、いまやキムチは全米のレストランのメニューの5.5%に使用されるまでになった(ちなみに、韓国系アメリカ人は米国の人口の0.6%にも満たない)。
酸味や酸っぱさは「味=Taste」なのか? それとも「味わい・風味=Flavour」なのか? 前者が口内の受容体から脳に送られる情報で、後者が口から脳に送られる情報の解釈だとすれば、「酸味は味わいや風味より、味に近い」と『The Elements of Taste』の著者であるピーター・カミンスキーは言う。口に入れたあとに、身体的なショックがあり、それが快感か痛みなのか微妙にわからない、というのも酸味の魅力のひとつだ。酸味は言語学的にも捉えにくい存在で、英語圏では酸味は苦味に間違われることも多々ある。タヒチ語では「アヴァアヴァ」という言葉が、酸味、苦味、塩味のすべてを指すものとして使われている。苦味は身体に悪い何かを判別するときに役立つことが多いが、酸味は良くも悪くも何かが変化を遂げている過程(牛乳→チーズなど)を物語る。
そして、酸味はわたしたちに心理的な影響も与えている。2011年の『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載された論文では、酸っぱいものを食べたあとに人は他人の意見に同意しにくくなったり、善意的な行動を取りにくくなるという結果が報告されている。最近の論文では、酸味の効いた発酵食品を食べる人は、そうでない人に比べて心配や不安が少なく、我慢強く、リスクを取りやすいという調査結果もある。酸味は複雑で、掴みどころがないものだ。もしかすると、複雑な時代を生きるわたしたちにとって必要なのは、簡単に気持ちよくなれる甘みや塩味ではなく、世界をありのままに見つめるための酸味なのかもしれない。
How Sourness Has Come to Dominate Our Dining Habits, and Our Discourse

ノンアルコール・バーの興隆
ブルックリンのグリーンポイントのメイン通りから一本入ったところにあるバー「Getaway」は、ニューヨークに存在する他のインスタ映えするカクテルバーと何ら変わらないように見える。ひとつだけ大きな違いを挙げるとすれば、Getawayではアルコールを取り扱っていないことだ。パンを売っていないパン屋のように、アルコールを提供しないバーは矛盾しているように聞こえる。しかし、ニューヨークやロンドンなど大都市の狭いアパートに暮らす人たちにとって、バーは第二のリビングルームみたいなところで、そこでアルコールを飲まないことはひとつのオプションとして受け入れられている。Getawayは0%アルコールフリーのバーなので、0.05%のアルコールを含む通常のノンアルコールビールも売っていない。
アルコールを生活に取り入れない「ドライ・ライフスタイル」は世界中で広まっており、ポートランドの「There's Vena's Fizz House」やロンドンに3店舗ある「Redemption Bar」など、このニーズに対応したレストランやバーは増えている。アルコールを提供しないバーは、19世紀に起きた禁欲運動(Temperance Movement)のときにも存在した。ただ、いまのムーブメントは宗教や政治的な思想ではなく、人々が選択するライフスタイルに結びついていて、アルコールを摂取することと同じくらいアルコールを摂取しないことが選択としてある「Drink Optional」という考えに基づいている。人々のライフスタイルニーズがますます細分化・多様化していくなか、よりきめ細かいサービス設計が必要になってくるのだろう。
The rise of the sober bar

😎Cool Things of The Week

今週102歳で亡くなられたモダン建築の巨匠、IM Peiさんの代表作品の画像集を『ガーディアン』が掲載しています。
In pictures – IM Pei's finest works

ノンアルコール・バーの記事を読んでいるときに思い出したのは、ノンアルコール・スピリットブランドの「Seedlip」。日本での取り扱いはまだないみたいですが、ブランドストーリーとデザインがカッコいい。
Seedlip

「ブラック・ミラー」シーズン5のトレーラーが公開。6/5配信スタートです。
Black Mirror: Season 5 | Official Trailer

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