メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第32回となる今回は「体験型コマース」について、取り上げます。
コロナ禍を経て現代では物販に関してECを使う割合が増えましたが、ECで購入前に期待したことと実際に手に届いた製品のギャップを感じることがあります。大きさ、形、重さ、色、匂い、効用、使い心地などさまざまな点で、実際に使ってみないといけないとわからないことがあります。
多くの場合、製品詳細をよく読み、ユーザのレビューを確認することで、購入前にギャップの解消を図ろうとしますが、ときには読みが外れてしまうこともあります。とくにシャンプー、化粧品、インテリアなどの製品は、試してみないとよくわからない上、一度買って使ってしまったら返品も容易ではなく、満足いかないまま処分するか使いつづけることを強いられます。
これまでは、ショールーム化された店舗を訪れ実物を確認する、AR機能を使ってスマートフォンで3Dの製品イメージを確認する、などで期待ギャップを埋めようとするソリューションが提供されてきました。一方で既存のソリューションは依然として形や色味を確認できる程度で、実際利用したときに得られる効能や製品同士を組み合わせたときの状況をリアルに想起することができません。
こうしたギャップ解消が十分できていない問題に対し、購入前に「体験」の一部を提供することでうまく解消しようとするサービスにシリコンバレーをはじめスタートアップ界隈で投資が集まっています。今回はそれを「体験型コマース」と呼び、事例を見ていきたいと思います。
実利用をきっかけとしたコマース体験: Minoan
Airbnbで宿泊すると、ホテル顔負けの整備された宿泊施設で、今まで使ってみたことがなかった良い家具や調理器具、家電に触れる機会がしばしばあります。実際に使ってみるととても良い印象で、自分でも欲しいと思うことがありますが、どこのブランドのものかわからないことも多いですし、わざわざオーナーに聞くのも面倒です。そういった製品は気にはなるものの、結局探すことを諦めてしまいます。こうした問題をうまい方法で解決しソリューション提供しているのが、スタートアップのMinoanです。
MinoanはAirbnbのオーナーやホテルチェーンに対して通常価格よりもディスカウントされたパートナーブランドの製品を提供します。宿泊するゲストがその製品を実際に利用して気に入った場合、製品に付属するQRコードを読み取り購入することができます。ゲストが購入すると売上の数%がAirbnbオーナーやホテルにマージンとして渡されます。
(1) ゲストは新たなお気に入り商品を見つける機会を得られ、(2) Airbnb/ホテルオーナーは元々コストセンターである宿泊設備を従来よりも低コストで整えられる上に新たな収入源にでき、(3) Minoanは集客が不要でECで売上を立てられるため、ゲスト、Airbnbオーナー/ホテル、Minoanの三方良しの形を実現できています。