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Magnet Newsletter / Issue 004 / January 24th 2022

Understanding Subscriptions

NYTが約640億円で買収。スポーツサブスクメディア「The Athletic」の軌跡


あなたが注目している海外メディアはなんですか?

そんな質問に「The Athletic(ジ・アスレチック)」と答える方も多いのではないでしょうか。

「The Athletic」はスポーツ専門のニュースメディアで、2016年にシカゴで創業しました。従業員数600名の新興ウェブメディアにもかかわらず、全世界に約120万人の有料購読者を抱え(
2021年12月時点)、今や世界でも十指に入るサブスクリプションメディアの地位を手にしています。

2022年の年明け早々にThe New York Times社による買収が報じられ、今年はさらに注目が集まりそうです。「The Athletic」のこれまでの歩みをたどりながら、成功の秘訣を探ってみましょう。

有料購読者は創業6年で120万人に成長

「The Athletic」の有料購読者数の推移は以下のとおりです。目覚ましい成長ぶりが数字にもはっきりと現れています。

「The Athletic」の有料購読者数
2018年:10万人
2019年:60万人
2020年:100万人
2021年:120万人

出典
2018~2020年:
FIPP「Global Digital Subscription Snapshot」
2021年:
New York Timesプレスリリース

2016年のローンチ以来、北米の都市に着々と拠点を増やすとともに、扱う競技ジャンルを拡充することで購読者を伸ばしてきました。2019年には英国版をローンチし、有料購読者数が大きく増加しています。

NYTが5.5億ドル(約640億円)で買収

2022年1月6日、The New York Times社は「The Athletic」を5.5億ドル(約640億円)で買収することで合意に達したと発表しました。NYTによる買収の意向は2021年の5月にも報じられており、その後交渉が頓挫していました。今回の買収合意は「ついに話がまとまった」と解釈できそうですね。

「The Athletic」の買収後も共同創業者のMather氏とHansmann氏は残り、NYTとセクションを分けた運営体制になる見込みです。

「The Athletic」のすごさは、商売の基本を徹底していること

これほどの大躍進を果たした理由はどこにあるのでしょうか。同社について報じた記事を振り返ると、コンテンツ・マーケティング・運用のそれぞれで確実に成果を残していることが伺えます。


質の高い独自コンテンツ

「The Athletic」を語る上で欠かせないのがコンテンツの魅力です。これまで新聞の地方版に小さく掲載されるにとどまっていた地域のスポーツチームやアマチュアスポーツを深掘りして報じることで、熱狂的な読者の獲得に成功しました。

記者に惜しみなく
高待遇を提示することでも知られており、有名記者の引き抜きにも積極的です。ほとんどのコンテンツをペイウォールの内側に置く強気な課金方式を採用し、8割が購読を更新する価値の源泉は、紛れもなくコンテンツの力にあるといえるでしょう。


効果的に購読者を獲得するマーケティング

良質なコンテンツさえあれば読者が集まるわけではありません。「The Athletic」は、他メディアやスポーツチームと提携することで新たな読者を獲得しています。過去の事例をいくつか紹介します。

  • ブルームバーグ(経済メディア):セット割引の購読プランを提供

  • Optus Sports(豪州のサッカーチャンネル):ウェブサイトのニュースセクションに「The Athletic」の一部記事を無料掲載、チャンネル契約者向けに半年無料の購読オファーを提供

  • T-mobile(通信サービス):同社が保有するストリーミングサービス「MLB.TV」とセットの1年間の無料購読を提供

  • トロント・アルゴノーツ(カナディアンフットボールのプロチーム):シーズンチケット所有者に「The Athletic」のお試し購読を提供

やみくもに安売りやお試しキャンペーンを乱発するのではなく、スポーツファンや有料購読の習慣がある読者層に狙いを定め、着実に購読につなげようとする意図が見て取れます。

一部報道では「今回の買収によって、The New York Timesとセットの購読プランが提供されるのではないか」との
見解も示されており、「The Athletic」購読者の裾野はまだまだ広がりそうです。


パフォーマンスをデータで測定・評価する運用体制

再現性ある成功とさらなる改善を実現するためには、コンテンツや施策をどのように評価するかも重要です。
DIGIDAYの取材によると、The Athleticの記者は基本的にすべてのデータにアクセスできる環境とのことです。記事ごとのパフォーマンスやどの記事が有料購読につながったかを把握することで、コンテンツ制作においても「量より質」を追求でき、生産性の改善に役立っているといいます。

彼らの取り組みを一言で表すならば「高品質な商品を生産し、多くの人が手に取れる状態にして、データをもとにサービスを改善し続ける」――つまり、商売の基本を徹底していることに他なりません。

事業としてのメディアを着実に育て上げ、華々しくNYTグループに加わった「The Athletic」。日本のメディアにも大いに学びがありそうです。


中山明子

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▼前回のニュースレターアンケート結果発表
Q. 2021年の「注目トピック」あなたが気になったテーマは?

特に回答が多かったのは「加速止まらぬテックとのコラボレーション」と「音声コンテンツ参入、続々と」の2テーマでした。バズワードになりつつあるNFTをはじめ、テクノロジーと記事コンテンツの掛け合わせはこれからも事例が増えていきそうです。音声コンテンツはコロナ禍をきっかけに脚光を浴び、日本では2021年に大手メディアの参入が一気に増えたことで印象に残った方も多いかもしれません。2022年は、どんなトピックがトレンドの中心になるでしょうか? 今から楽しみですね。

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Ximera Media Next Trends #25 / Text: Ikuo Morisugi

アルゴリズムドリブンなメディア

並の開発者では実現が難しい技術が民主化されつつある

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第25回となる今回は、「アルゴリズムドリブンなメディア」について紹介します。

ソーシャルメディアや動画サイトをはじめとして、我々が普段利用しているメディアの多くで、アルゴリズムによる機械的な意思決定が行われています。たとえば、TikTokやYoutubeやNetflixのフィードは機械的にパーソナライズされ、できる限りユーザにサイトに滞ってもらえるように最適化されています。

そうしたデータサイエンスやAIの進化は止まらず、「次世代のヒットメーカーを見つけ出す」、「アルゴリズムがコンテンツ自体を生成する」など、これまでのアルゴリズムやAIでは難しいと考えられていたタスクも実用レベルになってきました。

こうした技術を実用化しているスタートアップは多数存在していますが、本記事では特に自社でメディアを持ち、アルゴリズムの活用で新たに付加価値を提供しているスタートアップを紹介したいと思います。

データ分析でヒット作を見つけ出す: Inkitt

これから出版する書籍がヒット作になれるのか事前に検証することは困難です。市場に出してみるまでは内部レビューによるフィードバックしかなく、少数の人間のバイアスによりベストセラーを見逃してしまうということが起こります。たとえば、ハリーポッターは
12の出版社から出版を断られ、スターウォーズの初期は「変な映画だから」という理由で製作関係者に評価されなかったといった話は有名です。

この課題に対してデータサイエンスのアプローチでベストセラーを拾い上げようとしているのが
Inkittです。Inkittは2つのプラットフォームを持っており、1つは無料で誰でもストーリーを配信・閲覧できるInkitt、もう1つはInkittの中から一定の基準で選ばれたストーリーだけが掲載される有料書籍のマーケットプレイスGALATEAです。

詳しくは明かされてはいませんが、Inkittは投稿された作品がベストセラーのポテンシャルを秘めているか
アルゴリズムを使って評価しています。作品がInkittにアップロードされると、各読者の1200以上の読書関連の行動がトラッキング・分析され、一定以上の評価を得るとGALATEAでの有料配信の検討がはじまります

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『週刊文春 電子版』の現場に学ぶ
サブスクリプション戦略ウェビナーを開催

『週刊文春 電子版』コンテンツディレクターの村井弦氏にデジタルサブスクリプションの実践知をお聞きします

2021年3月のサービス開始から間もなく1年を迎える『週刊文春 電子版』。雑誌『週刊文春』の記事をWebで閲覧できるサブスクリプションサービスとして、同社のデジタルビジネスを牽引する存在へと成長を遂げつつあります。こうした好調の背後には、年間プラン・法人プランの提供開始、多彩なキャンペーン、音声コンテンツへの挑戦など、周到な戦略とその実行を支えるチームの存在がありました。

今回のウェビナーは『週刊文春 電子版』のサブスクリプション戦略に迫ります。『週刊文春 電子版』チームの生の声と、パブリッシャーのサブスクリプションビジネスを支援するキメラの知見をお届けします。お誘い合わせのうえ、ぜひご参加ください。

第1部は株式会社キメラ代表の大東より、メディアのサブスクリプションビジネスの展望をお伝えするとともに、当社が提供するサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」のサービスアップデートについてご紹介します。

第2部はトークセッションとして、『週刊文春 電子版』コンテンツディレクターの村井弦氏をお迎えします。事業設計・集客・サービス運用・組織運営に至るまで、デジタルサブスクリプションの実践知をお聞きします。

開催概要
日時:2022年2月9日(水) 16:30~18:30
参加費:無料
形式:オンライン(お申し込み後に配信URLをご連絡します)
参加方法:インターネットに接続できるPC・スマートフォン
参加資格:日本国内のパブリッシャー(新聞、出版、放送局)にお勤めの方、メディアのサブスクリプション事業に興味のある方
主催:株式会社キメラ

プログラム
第1部:メディアビジネスの現在地とこれから迎える未来(16:30〜17:00)
スピーカー:株式会社キメラ 代表 大東 洋克
第2部:『週刊文春 電子版』の現場に学ぶサブスクリプション戦略(17:00〜18:30)
スピーカー:株式会社文藝春秋『週刊文春 電子版』コンテンツディレクター 村井 弦 氏
モデレーター:株式会社キメラ メディアストラテジスト 中山明子

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