【ミチルのひとりごと】
エッセンシャルかどうか、ということが今回のロックダウンの際に問題となった。
ESSENTIAL
日本語に訳すと、「必要不可欠」という意味になろうか。 食料品店や薬局などは営業を継続することができ、その他のノン・エッセンシャルとみなされた店は、閉めなければいけない。
しかし・・・ミチルは思ったのだ。エッセンシャルじゃないものなんて、この世にあるのだろうか? 必要だから存在するのである。
一見ラグジュアリーに見える高級ブティックなども、そこで働くお店の売り子さんにしてみたら、エッセンシャルだし、1年に一度しか行かないようなお店でも、やはり必要だから存在するのだ。
たしかに今時、洋品店が開いてないから着るものがない、なんていう人はいないだろう。しかし、そもそも衣食住というくらいだから、人間にとって非常に大切ではないか。雑貨店も、お化粧品専門店も、眼鏡屋さんも時計屋さんも・・・不必要なお店なんてない。
大型スーパーでは様々なものが売られているので、普段ならスーパーで洋服なんて買わない、という人でも、前回のロックダウンのときは仕方なく購入した人もいた。スーパー・マーケットはコロナで潤ったが、専門店は悲鳴を上げる、という形になったように思う。
前回のその教訓を生かして、今回はスーパー・マーケットで食品以外のコーナーを閉めるようにしたが、消費者にとってもこれは痛手である。
今回のロックダウンが始まる直前の週末は、直接お店で買い物ができる最後のチャンスとばかり、多くの人々が外出していた。しばらく行けないと言われると、限られた時間内にどこに行こうか焦るものだ。
しかしよく考えると、結局、そんなに家から離れた場所には行けないという結論に達した。なぜなら、レストランやカフェが開いていないため、途中でお腹が空いたり喉が渇いても、ちょっと休憩するところがないからである。
つまり、これまでのように、週末、朝イチからお出かけし、外でランチをし、ちょっと疲れたらカフェで一服、という普段のありきたりの週末の過ごし方ができない。
ロックダウン直前、まずミチルが土曜日の朝に向かったのは電気店。郊外の大型店だが、待ち時間もなくすぐに入店できてラッキーと思ったのも束の間、どうも閉店期間中に内装工事に入るらしく、店の半分以上の面積が閉鎖されていて、お目当のモノも見つからず、がっかり。
気を取り直して、午後からはトワゾンドールの大通りをショッピング。いくつか日本発のブランドが旗艦店を出して頑張っていた。全く予定していなかったのにもかかわらず、思わずお買い物してしまう私。お店のお兄さんやお姉さんがとても親切で、嬉しくなる。さすがジャパニーズ・ブランド。社員教育が行き届いているわと満足。
店の外に出ると、もう真っ暗。10月末のブリュッセルは、日が暮れるのが早い。朝あんなに天気が良かったのに、なんと雨まで降っている。ベルギー在住10年を超える私としたことが、この国での必需品の折り畳み傘を忘れてきてしまっていた・・・。
雨の中をコートを頭の上にかぶせるようにして通りに駐車した車まで、走っていると、途中に、帰りに寄ろうと思っていたキッチン用品の店が見えてきた。あ、そうだ、ここにも寄りたかったんだ。腕時計を見ると、18時過ぎ。もう閉店時刻である。でもドアは開いている。入り口に立っている黒人のお兄さんに、
「もう閉まるよね?」と念のため聞いてみると、なんと
「今日は特別、19時まで開けるよ。それに明日の日曜日も特例で開けるんだ。だから、今からでも十分時間あるし、明日来てもいいよ」と言って、甘い笑顔で手招きしてくれる。
「え? 明日も? ああ、そっかー。月曜日からは閉めないと行けないから、明日がある意味で最終日みたいなものだものねえ」と思わず私が呟くと、 20代くらいの若いそのベビーフェイスの細身のお兄さんは、両指を耳の穴に入れる仕草をして、
「何、何? 僕、あなたの言っていること聞こえないよ。聞きたくないよー!」 と眉をひそめつつ、でも少し笑いをかみしめるような顔をした。
こんな何気無い、お店の人たちとのたわいないやりとりが、これからしばらく出来なくなるのかと思うと、ちょっと切ない。
エッセンシャル。私たちにとって本当に必要なものは何か考えさせられる。 あなたにとって、絶対に必要不可欠なもの。絶対に閉まってもらっては困る店。それはどんなお店ですか?
3.nov.2020
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