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Newsletter by Ximera, Inc. No.029

Newspaper scenes for digitization, subscriptions, and renewal

デジタル化、サブスク、リニューアルに向けた
新聞社の現場

「実は今まで新聞社として考えてこなかったことを、
すごく時間をかけて考えて意思疎通を図った」だと思うんです。

こんにちは! Magnet Newsletter No.029へようこそ。12月です。もはや「今がいつか」ではなく「残り何日か」で考えがちです。


キメラは11月に2本のイベントを開催させていただきました。ご登壇いただいたみなさま、ご視聴いただいたみなさま、事後アンケートにご協力いただいたみなさま、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。


15日に開催した1本目「メディアのプロダクトをつくり、育てるチームのつくりかた」はキメラのYouTubeチャンネルでみなさんに、29日に開催した2本目「コンテンツ制作の現場とデータ活用のケーススタディ」はイベントに参加登録してくださった方(登録時のメールアドレスの受信ボックスをご確認ください)にアーカイブ動画を公開しております。


今回のMagnetではその1本目、北海道新聞社と琉球新報社をゲストに迎えた「メディアのプロダクトをつくり、育てるチームのつくりかた」をテキストでお送りします。デジタル化、サブスク、リニューアルに向けた現場の取り組みが直接聞ける機会として事後アンケートでもご視聴いただいた方からご好評をいただいている、その中身です。


動画で観たい、全編をご覧になりたい方はキメラのYouTubeチャンネルでご覧ください。イベントをご視聴になった方は事後アンケートへのご記入をよろしくお願いいたします。

11月15日 17:00 Zoomにて

メディアのプロダクトをつくり、育てるチームのつくりかた

北海道新聞デジタル 琉球新報デジタル 株式会社キメラ

この原稿は口述の書き起こしです。読みやすさのために編集されています。


大東 洋克 (キメラ代表):今日のテーマは「メディアのプロダクトをつくり、育てるチームのつくりかた」。どうやってプロダクトを作るんだっけということではなく、それを動かす育てる人たちが重要だと思っている。どうやって体制を作って連携しているのか、そもそもどういう思想でプロダクト作っているのかで悩まれてる方が多い印象だ。


なぜプロダクトの話をするのかというと、直近、地方誌のリニューアルがすごく多い。この1,2,3年でそこら中でリニューアルしている。これからリニューアル計画する方がどうやって進めればいいのかのヒントを得られたり、その後どうやってグロースさせるのかのヒントだったり。各社がどうやってきたのかを知る機会がなかなかないので、それができるといい。各社それぞれの考え方や進め方が重要だと思っている。何をやったのかも重要だが、なぜそう考え、なぜそう進めたかがヒントになると思っている。


琉球新報社、北海道新社、両社リニューアルや新たなプロダクトの立ち上げなど活発だ。まずどんなことをしたのか教えてください。


来間 信也(琉球新報):弊社、琉球新報社は今年が創刊130年の節目の年でいろいろがんばった年だった。今年の8月に価格改定、サブスクのプランの見直し、それにあわせて会員管理システムを入れ替えた。9月にサイトのリニューアル、デザインも変えてCMSも入れ替えるということをした。今年はだいぶ動いた。


前のサイトができてから7年くらい、安定して動いてはいたが、日々出てくるやりたいことが実現できない。そういうことが増え、リニューアルを考えるきっかけだった。5つあったプランも3つにしたりと、だいぶいろんなことをやった。


中瀬 督久(北海道新聞):今年の2月から本格的にサブスク販売をはじめた。それまでは北海道外のみで限定的にしかやっていなかった。その2月のサブスク販売開始に向けて、1月にかつて道新電子版と言ってたものを北海道新聞デジタルという形にブランドも新しくてフルリニューアルした。プロダクトの開発でいうとここが一番大きい。


サイトローンチ後は日常的なデータの収集・分析など、日々のPDCAを回すためのツール開発も内製化している。


あとはこの道新デジタルの立ち上げと並行して、昨年11月いっぱいで紙を休刊した道新スポーツに変わるスポーツサイトだとか、テーマ特化型のバーティカルメディア、幅広い出面をとっていくために社内のECサイトを統合した新しいECサイトの立ち上げなど、この1年2年で取り組んできた。


道スポのほうは誌面の休止が決まって、その手前でデジタル版のサイトを作って動かしてますね。


中瀬(北海道新聞):内部的に誌面の休刊はけっこう早くに決まってまして、サイト自体はおととし2021年のゴールデンウィーク明けくらいに立ち上げた。最初は投入するニュースも何もない状態で少しずつ運営していって、去年の春に一般公開をはじめ、11月に紙をやめて完全にデジタル一本になった。いま取り組んでいるサブスクも今年の2月の末から3月の頭くらいにはじめて、本格的な販売を開始したのは5月のゴールデンウィーク終わりくらいからだ。


両社ともに直販のデジタルに舵を切って伸ばしていこうってことですよね。リニューアルの目的や解決したかった課題はどんなものがありましたか?


来間(琉球新報):前回のサイトは安定していたが、やりたいことに躓くことが増えてきた。現在の環境に対しての潮時が近いのではないかという声が部署で充満してきて、その解決のために考えはじめた。が、すぐにリニューアルで動いていたわけではなくて、自分たちが何をしたいのかを言語化するところからはじめた。私たちのサービスを買ってくれるのは誰なのか。お客さんが抱えている課題は何なのか。それに対して私たちが提供できる価値って何だろう、答えって何だろうということを長い時間考えていた。部署内で長く話したが、去年の夏くらいにリニューアルにあたっての考えを全社発表したりして、単純に変えるのではなく、私たちがやりたいことを拡げていくかたちでスタートした。


やりたいことができなかったのは、具体的にどんなことが大きかったですか?


来間(琉球新報):それまではコンテンツの量とか値段でお客さんを見ようとしていたと今では思う。だが、大東さんと話しながら、うちのサイトに来るお客さんの姿、何を思いながら見ているのか、サイトから離れるときに何を思っているのかを言語化、議論して、進める方向を決めていった。


130周年も(動機として)大きかったですよね。


来間(琉球新報):それに向けていっちょかましてやろうじゃないというのもあった。


滝本 匠(琉球新報):来間からお話したのは、それまで明確に突き詰めて考えてこなかった自分たちの提供価値を議論したフェーズでのことだ。それらはキメラと一緒にやっているなかでの化学変化もあったが、そもそも、それより前に私がデジタルの担当になったときに考えたのは、数字を見て読者がどう動いたのか、何を書いたら読まれるのかが全然見えない、わからないということだった。そういうものをデータとして得られるようにしたいだとか、実際のサブスクで読者どういう形で有料会員になってくれるのかの動線というのも意識していなかった。それも大東さんと話すなかで、購読までの段階(ページ遷移や入力などの手順)が多いことで読者が離脱をしてしまうこと、経路のことも整えないと、そのときのその状態、サイトでは限界だった。天井が見えたことが、変えないといけないというスタートだったと思う。


道新さんはどうですか。取り組みの目的・課題はどういうところを捉えてリニューアルに進まれたのか。


中瀬(北海道新聞):そもそもなぜリニューアルしたかというと、さきほども申したとおり、我々のサブスクは道外でしかやっていなかった。もともと弊社のデジタル戦略的なもので明文化された大きなものでいうと、半年くらいかけて2018年3月に作ったもので、そこでサブスク販売に関して、というか当時の電子版に関しては、紙の購読者向けの付加価値を高めるサービスの一環という位置付けで決着していた。サブスク販売は紙の販売に影響を与える懸念もあるし見送ろうと。ただ唯一、道外に関してはその影響は少ないだろうからはじめようというまとめ方だった。我々組織ではそれが大前提にあったので、サブスク販売っていうのは社内で口に出すのも御法度というところもありながら進んでいた。


2019年の7月くらいに今の社長の宮口(当時常務)に呼ばれまして「2018年にデジタル戦略を作ってから2年以上が過ぎた。こういったものは2年も経つと世の中も変わっているから、次のデジタル戦略をつくれ」という指示があって、ただ具体的に何をやれという話ではなく、より全社ごとになるような仕組みだけ作ってくれというお題だった。それでまた改めてサブスク議論しましょうって話にしちゃうのは簡単だがそれでは全社ごとにならない。とにかく平場で一回徹底的な議論をしようと。ということで2019年の秋くらいから議論はじめたらですね、やっぱり圧倒的にみんなのなかで次にデジタル戦略何やったらいいっていうともうほぼほぼ全員に近い形でやっぱりサブスクやらんきゃなんないよねって話になった。その辺から徹底的に社内議論して結果的にサブスクやってこうと方向が決まって、それで改めて現読向けのサービスだったデジタルを、それだけでお金を払ってくれる読者向けに新しく一から作り直すと。紙の読者ではなく、誰だったら買ってくれるのかを設計して一から作り直した。過程でいうと琉球さんと同じように大東さんにサポートしていただきながら議論して開発に至った。


開発のなかで期待していた変化でいうと、大東さんからもDXっていうのは社内の文化を変えることだってずっと言われていて、いかにデジタルでニュースを発信していくことが重要なことかってことを一生懸命伝えながらきてますけど、少しずつその変化を期待しながら日々活動している。


リニューアルをしましょう、サブスクを伸ばしていきましょうというときに、社内の文化や考え方という点で、何が変わったか。何を意図しましたか。琉球さんはとくにですけど、物の作り方が大きく変わった。新しい取り組み、改修やキャンペーンやりたいというときにスピーディーに動けるようになったと思う。


来間(琉球新報):今回のプロジェクトでは、社外のみなさんに助けていただきながらやってきた。プロジェクトマネージャー的な方をひとりつけてもらって、全体の方向性を整えてもらいながらも、社内の意図とのバランスを見ながら進めていくことを私と二人三脚でやってきた。デザインも社外の方にお願いした。「なぜそう変えるのか」の議論をだいぶやりながら進めてきた。


開発も当然外部にお願いした。弊社には社内にエンジニアがいるわけではないので、開発は外に頼るしかない。しかし自分たちがやりたいこと、進みたいことに対して、簡単に投げ出して欲しくなかった。何が障壁で、どう改善すればできるのか、前に進めるのかの話をしたくてやっていた。まず自分たちのやりたいことを人がわかるように言葉にして伝えて、実現していく。この方針でやってきたし、やっていきたい。自分たちが先に進んでいるという実感をもってやっていきたい。


道新さんどうですか。(リニューアルをしましょう、サブスクを伸ばしていきましょうというときに、社内の文化や考え方という点で、何が変わったか。何を意図しましたか)


生田 憲(北海道新聞):簡単に言っちゃうと、ユーザー目線とデータドリブンの考え方が浸透してきた。ユーザー中心、読者中心のプロダクトを作ろうという考えに同意しない記者っていないと思うんですけれども、実際に読者を見たり反応を感じられる機会が紙の時代にはなかった。それがデジタルがはじまってChartbeatを見たりうちのツールでデータが見れるようになってきて、施策に対して実際にユーザーの行動が変わってこういう反応返してくれたということがわかってくると、自然とデジタルへの関わりが深い人に関しては、今まで編集って新聞社独自の価値判断をするんだみたいなちょっと言葉悪いですけど内向き的なところから、もうちょっと広く読者に対する想像力を働かせながら日々の仕事をしようっていう文化が強くなってきたんじゃないかなと思います。UIとかUXの分野は私たちの部署(デジタル推進室)主導でリニューアル時は進めてきたんですが、編集局側から文言の相談が来るようになってきた。こちらから投げかけてきたことが、向こう側にも浸透してきたのかなと思います。


紙だと原稿書いて、見出しをつけて、あとはごはんを待てば一応仕事は成り立つんですが、そのあとにちゃんと見返すとかスマホで見るとか、そういう習慣が編集者のなかに出てきたのかなと思います。ひとつひとつは学習コストが高いので、我々が積極的に関わったキーパーソンとか丁寧に説明した人に限られていて、現場で第一線で頑張ってる人たちにどれだけ伝わってるのか、意識が変わったのかは進捗に差があるとは思っている。その辺の啓発がこれからの課題かなと考えています。川村が作ってくれたプロダクト(後述)を編集局の記者全員に解放していて、それがかなり貢献していると思う。


道新さんプロダクトリニューアルのあとのデータに対する取り組み方が変わりましたよね。今だと有料購読した人がどんなものを見て行動してるのか、ほかがやらないくらいにこだわってやられてますよね。これも大きな変化ですよね。視点の変化。


中瀬(北海道新聞):一からGA4とかで取得するのも手間がかかるんですけど、うちは川村とかそのへん触れる人間があと2人いるんで、こういうデータが欲しいと話すと、極端な話、数時間後とか数十分後に「とりあえず作ってきました」と開発してくる。そうすると、なかなか知れなかったユーザーのインサイトみたいなものに容易に触れるようになってくるんですよね。そうなると、より僕らもユーザーのことが知りたくなる。ユーザーインタビューも並行してやってますけど、それと実際のデータ上からどう見えてるのかを見ながら、ユーザーがどう考えて、どういうトリガーがあって、どういう行動になってるのかを深堀ってやってます。


ユーザー目線を定量的にも定性的にも見るようになったってことですよね。そこまではどうしてたんでしょう。なぜこう変わったのか。


中瀬(北海道新聞):フラッと見てましたよね、大括りで。そこから仮説を立てることはしていたが、粒度は荒かった。より細かいデータドリブンの発想になって粒度が細かくなってきた。仮説が少しずつ的を射てきている。


川村 裕(北海道新聞):ツールだけで言うと、はじめのうちは記事の見られ方がどうのくらいのレベルのものしかなかった。入会とかのことに関してどういう流れで入ってきてるのっていうのはGA4でも見れるんですけど、閾値やサンプリングの問題があってあまり精度がよくないんですよね。以前は部員としてのエンジニアは私1人だったんですけど、1月に1人入って、7月にもう1人来て、3人体制になったことで、これまでベースだけ作ってたもの、ログレベルで見れたもののUIが進化して、みんなが調べたいときにすぐ調べられるようになったのがかなり大きいと思っています(GoogleのLooker Studioを使用)。


どのメディアもそうだが、全体像としてデータを捉えたがる。が、琉球も道新も違うんですよね。ピンポイントでユーザーの行動をみて考える。なんでですか。みんな大きいダッシュボードで全体の傾向みてやりがちだと思うんですが。


滝本(琉球新報):それだと何も見えないからじゃないですか。全体を見るような大掴みでは粒度が荒いので仮説に対して一対一で返って来ない。これだと仮説が確かなのかわからず、結果、全体を見てるだけでは何をしたらいいかわからない。


生田(北海道新聞):編集的に言うと、Web編集のお作法は社内に蓄積がない。データを見て判断していくしかないので、そこに頼らざるを得ない。そうなると、全体を見ているだけでは意味がないので、ひとつひとつのコンテンツや取り組みに目がいくのだと思う。


中瀬(北海道新聞):ひとりひとりユーザーの顔が見えてくると、想像と違うことが多い。僕らが思っているよりもこんなに何回も悩みながら買ってくれてるんだとか。道新スポーツなんかとくにそうだが、買ったあとに堰を切ったように今まで鍵がかかって見れなかったものを一気に読んだりする方がいる。そういうものが見えてくると、ユーザーが何を期待しているのか、そこに至るまでのユーザーの想いが伝わるので、我々もプロダクトをブラッシュアップしなきゃなって思います。見ていると非常におもしろいです。


仮説検証はだいたい外れている。だが、これをやらないと数字の肌感が育たない。全体の数字をみて雰囲気わかってるけど実は何もわかっていない。ミクロでサンプルをとって動きを見ていると、みなさんご自身のユーザーに対する捉え方や考え方がブラッシュアップされていく。アンテナがしっかり張れるようになる。


琉球さんは意思決定のサポートをしてくれる人がいてくれることで、物事を進めるときのスピードが上がったことが大きな変化ですね。今までのものづくりは外部のベンダーに依頼を出してリリースするまでに時間やお金がかかっていた。有料購読を伸ばすための動線やLPの改善や検証をしようにも、そこのスピードが追いつかない。それが課題だった。今はそれを社内でハンドリングする、物事を進めるときに支援してくれる方がいるといいということで、外部の方を地元沖縄で採用してプロジェクトに参加してもらっている。今でも開発を外に出している点は変わらないが、滝本さん来間さんが物事を進めるうえで常に正しいインプットをして意思決定のサポートをしてくれる人をつけたことでスピードが上がった。デザインも東京の方が2人入ってデザインの精度や意思疎通が早くなり、施策を進めるときにバンバン進められるようになったことが大きいですね。


来間(琉球新報):とにかく数字を取ることをずっと求められていて、いまも日次の数字を取ることをずっとやっている。これをやってよかった。それまでは月のPVやUUを見ているだけで何も見えなかった。日次のデータを取ることでそのときあった変化に気づくことが増えて、想像して仮説を立てて動いていくようになった。


全体という見方と、ミクロの変化を捉えるという見方があるが、新聞社全体でリニューアルするときは、機能から入るところが多い。が、両社ともにそこをすっ飛ばした。細かいことより、まずは大きな絵だった。そこはどういうイメージで進めましたか。


中瀬(北海道新聞):宣伝ぽくなりますけど先生がよかったというか、私たちキメラさんとの付き合いは道新スポーツのデジタル化から入った。そのときに初めてこういうスケジュールでサイトを作りたいという話をして、その時点ですでに時間がなかったんですが、そんなことよりまずリーンキャンバスを作れと。リーンキャンバスってなんだって話からはじまって。で、2ヶ月みっちり指導されて、まぁ何をやってるのかなと……(はじめのうちは思うこともあった)。あなたたちの顧客は誰なのかからはじまって、提供価値が何なのか。2ヶ月みっちりやったときに憑き物が落ちたように、自分たちってやっぱりこういう読者に、こういうふうに向き合って、その読者に対してこういう体験を与えていくんだなってスッキリした部分があったんですよね。で、本体の道新デジタルのほうも僕らの経験として、そこをやったほうがいいと思ったんで、社内の若手に集まってもらってこれも2ヶ月くらいみっちりやってもらったんですね。で、それを終わるとみんな憑き物が落ちたようにスッキリすると。そうすると、もうそこで機能がどうのっていう議論にはあんまりならなかった。こういう読者に対してどういうふうにニュースを届けていけばいいか。機能というより、全体的な届け方に目が行った。


生田(北海道新聞):若手として集められて2ヶ月くらいゲロを吐くような議論してですね、北海道新聞デジタルの価値って何なんだっていうことを徹底的に議論して、顧客って誰なんだっけとか、強豪って地方新聞社じゃないよねみたいなところとか、けっこうそういうことを考えたことはなかったんで、そういうところから煮詰めていった。抽象と具体を行き来するみたいな、広げたと思ったら集約して、集約したと思ったら広げてみたいな話をしましたよね。中瀬が「憑き物が落ちたように」って言いましたけどリーンキャンバスができたときはやっぱりスッキリしていた。


川村(北海道新聞):リーンキャンバスで「あなたの街のニュースがある」というコンセプトが固まってそれに自信をもっていたので、そのリーンキャンバスに参加したメンバーも含め編集系の人たちが集まって、じゃあ新しいリニューアルにあたってコンテンツは何を足そうっていう話もするんですけど、リーンキャンバスに参加したメンバーがいることで乱立する意見を止めてくれたっていうのもありますかね。「その機能は本当にサイトコンセプトに合うのか」とちゃんと説得してくれて、必要なものを絞ってくれたんですよ。CMSの開発段階での優先順位づけでも「あなたの街のニュースがある」というコンセプトにどれだけ応えられるの?と、この価値観があることによって、ある程度は取り捨てができた。リーンキャンバスで決めたことがあったから、機能盛り盛りにならなかった。


生田(北海道新聞):ローンチするまでほかの部署の要望を一切聞かない、聞いても聞かなかったことにするというのをやっていて、それはローンチしたあともやっている。このボタン作れとかメニューの要望とかくるんですけど、最初にコンセプトがあって、こういうプロダクトを作るんだっていう自信があって、ここには理由が根拠があるんだというのがあるんで、はねつけやすい。これをやっておかないと昔のサイトと同じものができたと思う。


両社とも、デザインを起こしたりCMSを立てたりプロダクトを開発するための助走期間があったってことですよね。その助走期間に「実は今まで新聞社として考えてこなかったことを、すごく時間をかけて考えて意思疎通を図った」だと思うんです。


中瀬(北海道新聞):今年の1月にローンチしたが、だいたい2年くらいかけてるんですよね。売るってことを決めたあと、サイトのリーンキャンバスの検討が一昨年の春から3ヶ月くらいかけてコンセプト決めましたよ、と。そのあと数ヶ月空いたあと、そのコンセプトに基づいて3,4ヶ月くらいかけてUI/UXの議論、CCIさんにも入っていただいて徹底的にやったと。それでシステム開発、これも1年弱くらいかけてるんで、やっぱりローンチまでに2年近くかけてる感じですかね。


来間(琉球新報):弊社もリーンキャンバスでだいぶ時間を使って(大東:リーンキャンバスって何ですか)私たちは何者なのか、振り返る、旅? 考えてなかったわけではないが、あえて言葉にしてこなかったことを迫られているんだなってことをやってるうちに覚悟が決まってきた。最初にあなたのお客さん誰ですかって言われて「え?」ってなったんですけど、言葉にしていく作業をずっとしていった。弊社は同じ部署にすごくできる若い子がいて中心になって進めていってくれた。最初は荷が重いとも思ったが、むしろ生き生きと取り組んでいってくれた。「組織が考えるのであれば、私たちはこう動けばいいんですよね?」というように伸び伸びとやってるなと一緒に仕事して見えて、これをやってよかったんだなーと振り返って思う。


新聞社あるあるの、部門が分かれちゃってるので、全社的に我々は何のために仕事をしているのか、お客さん誰なのか、我々が仕事をすることでお客さんにどんないいことがあるのかが実は大して話ができていなかった。部署内や個人では考えていたかもしれないけど、ちゃんと議論して言語化できていなくてみんなの共通言語化できていなかったのを言語化したってことですよね。


来間(琉球新報):紙とかニュースは広く読まれるべきで、Webも目指すところとしてはそうだが現実としてはそうではなくて。現実を直視する覚悟をもって、限定された人を顧客として捉えて、その人たちに向かって私たちはサービスを展開していくっていう道筋が見えてきたと感じている。


両社、デジタルに関わるメンバーが約 20人。チームがリニューアルプロダクトを作るというトリガーも大きかったが、その組織をどう作ってきたのか。変化してきたのか。よかったこと、反省点などどうでしょうか。


中瀬(北海道新聞):具体的な自分たちのお客様が見えてきて、自分たちが何を提供するのかが定まったので、必然的に自分たちの為すべきことがクリアに見えるようになってきた。そうなると人材に関しても、こういうことをするためにこういう技術を持った人材が必要だということをかなり説得力をもって言えるようになった。必要な人材を、必要なタイミングで調達しやすくなったことがすごく大きい。今年の1月には中途で即戦力のエンジニアが入った。会社の経営陣も理解を示してくれているので社内からも人材が集まりやすかったのも大きい。


販売からも営業からも編集からも制作からも人がデジタルに移ってきて、社内ぜんぶに手が行き届くように、意思疎通ができるようになってますね。


中瀬(北海道新聞):どこの新聞社もそうだと思うが、組織文化として縦割りでお互いの領域に口を出さないみたいなことがあるなかで、そこの出身者が話をするだけでその敷居を下げられることがあったり、そこの文化を知っていることで話しっぷりも変わりますから、それぞれの部門で活躍してきた人材に来ていただくのは仕事を進めていくうえではスムーズに進むと思っている。いろんな部門から集まってくることでデメリットはない。エース級が来てくれてることもあり、現局の代表で来ているというより現局を背負いつつもデジタル的な視点で何を為すべきかを考えてくれている。なので我々の部門内でハレーションが起こることはなく、非常にうまくいっている。


川村(北海道新聞):一般社員のレベルからするとほかの局に何かを頼みにいくことは非常にめんどくさいんですよね。行ったとしても「お前何者だ」と全然話を聞いてくれないこともある。デジタル推進室内に各局の人がいるので「これやりたいから、話通してきてよ」と言うと通してくれるんですよね。なので、このあたりの調整の時間を著しく短縮できたのがかなり大きいと思います。私は制作出身で編集のところへ行っても「やれデスク出せ、マネージャー出せ」って話になってしまう。上を通さずに現場レベルで話を通してくれるのがメリットだったと思う。中瀬が言ったように、いろんな部署の人たちが同じ部署で働いていてデメリットはないと思う。個人のレベルでその分野にどれくらいスキルを持っているのかを理解していくと、それを自分のなかに取り込んだりもできる。メリットしかないと思うが、生田さんどうですか。


生田(北海道新聞):メリットしかない。川村の言ったことの裏返しだが、社内中のことがデジタル推進室のなかだけでわかる。川村に聞けばエンジニアリングのことがわかるし、販売や営業の考え方や働き方のモデルがその辺の人に聞けばわかる。編集局からやりたいことの相談を受けたとしても、私のほうでリスクや他部署からの見え方などを一旦見て打ち返しができる。そういう意味でもスピードが速くなった。編集局がほかの部署と連携するときに一度デジタル推進室に話を預けると進みやすいことを考えてもらえているのではないか。


滝本(琉球新報):いま道新さんのお話もお伺いしてて、ご視聴いただいているみなさんの課題感っていうのは、だから、どうしたらそういう組織になってうまく回せるのかという、その一歩前なんじゃないかと思う。


けっきょく役員にデジタルを推進しようという意思をもつ者がいないと進まないんじゃないかなと思う。うちはどうだったのかというと、現場からデジタル化はああしろこうしろという議論は10年近く前からあった。だが、それを取り入れるかたちで進んでこなかったのがうちの歴史としてある。それをなぜいまやっているのかというと、ひとえに上がそうすると決めたからなんですね。決めないと進まない。決める人がいないとダメだが、そういう人がいない会社でどうするのかというと、理解のある人を育てる、仲間に引き込んでインプットしつづけて役員会で話をしてもらうしかないと考えている。(議論をしても)上が予算をつけないと進まない。


リニューアルをやってきてよかったことは?


滝本(琉球新報):いいことしかない。変えたいと思っていたことを乗り越えて進められる状況になったと思える。リーンキャンバスでメンバーの意識が変わり、プロダクトが変わり、またメンバーが変わる相乗効果に入りかけているような気がしている。


(以前は)答え合わせしようとするマインドもなかった。我々新聞社というのは、書いて送って組み付けて印刷して届けたら終わり、だった。だがデジタルは作ってからどうやって見せるか、チューニングするかということも問われる。そこまで考えると、どう作らなければならなかったのかを考えるマインドに変わっていった。


道新さんは?(リニューアルをやってきてよかったこと)


中瀬(北海道新聞):ユーザードリブン、データドリブンの意識が芽生えてきている。大きな変化だと捉えている。


助走期間でユーザー像をしっかりイメージしたこと。リニューアルしてからも本当にそれが正しかったのかの検証をしながらできていますね。目先の課題はどんなものがありますか。


中瀬(北海道新聞):さらに社内文化を変えていく必要があると思っている。これまではプロダクトを作ること、回すことで精一杯だった。自分たちがやっている取り組みや考えていることを丁寧に社員に伝えていく必要がある。それでより同じ目線で物事を考えられる人を増やしていく、社内文化を変えていくのが課題だ。意思疎通によって間違いなくスピード感が上がる。プロダクトの改修も僕らがかなりスピーディに回せるようになっているが、まだいくつか障害になるところはある。そういうところのながれがよくなると、今よりも早く対応できるようになる。


来間(琉球新報):仮説を立てて実行して、データを取って検証して、また別の取り組みをする。これを精度高くやっていきたい。そのための環境も整った。これまでは漫然と数字に向き合っていたが、解像度高く取り組む方向を決めて進めていきたい。


考え方を整える。みんなの思考回路を同じところに持っていくことを重要視してますね。


中瀬(北海道新聞):滝本さんがおっしゃっていたように、経営層の理解は必要だ。どれだけ売ったのか、どれだけ経営に資する活動なのかの話は常に出てくると思うが、そんなに簡単に結論が出るとは思っていない。どこまで会社としてがんばれるかということだと思う。そこで経営側の理解を得ながら進めないといけないし、それ以上に社員の理解を得て「ここがんばってかなかったらこの先ないんだよ」ってところをみんなと共有できるかがすごく大切だと思っています。


滝本(琉球新報):全社に跨って縦割りを横串してというかたちの道新さんのリーンキャンバスの話を伺って、我々も各部署から来たメンバーでリーンキャンバスをしたが、コアメンバーだけでやったので「デジタルの担当たちでやってるなぁ」と見られているきらいがあるんじゃないかと思っている。それをもっと全社的に広めるし、リーンキャンバスのアップデートも必要だと思っている。


顧客向き合いのマインドを作り上げたことが大前提で、それをプロダクトに落とし込むのを理解してやられたのだと思う。そもそも考えていたことが100%正解だとは思っていなくて、それを検証してアップデートしながらやっていく前提でやっている。うまくいってますか? リニューアル後。


滝本(琉球新報):だいぶ綱渡りな感じで……(一同笑)


道新さんはどうですか。


中瀬(北海道新聞):どうですか、生田さん。


生田(北海道新聞):中瀬さん、ここは「悲観していない」って答えるところですよ。


中瀬(北海道新聞):そうですね。まぁあの、なんつーんすかね、数字って思ったより正直言っちゃうと全然いってないんですよ。だけど直接ユーザーと向き合うと新しい発見がすごくあって、そこに可能性しか感じないですね。


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