すべての記事のサムネイルとタイトルを、大学生3人に見せて、5段階評価してもらった。周りに言われたら反論できないと思った。僕や後輩が言うと角がたつが、たとえば若い人たちに見てほしいという話になったとき、大学生とかに言われたらさすがに変わるかもなと、これを半年くらいやった。特集記事は本当に全記事やって5段階評価してもらった。
ただ伝え方はちょっと考えて、褒めるやつはいいんですが、ダメな例集は自分の近く、「これ悪いやつやらせてもらうわ」と言える感じの(信頼関係のある)ところから選んでいった。そうすると、いいやつ集だと「なるほどやっぱり、顔が強いのね」とか「サムネにごちゃごちゃ書いたらダメだよね」みたいな感じが「いや大学生から言われちゃったよ」みたいな感じも含めて、伝わりやすかったりする。伝え方の一工夫もちょこちょこやりながらやっている。
見出しはそのメディアの性格が出る。見出しのABテストはどんなふうにやっていますか。インプレスの臼田さんはご自身でけっこうやるとか。
臼田(Impress Watch):私の場合はもう5,6年くらいChartbeatを使っていて、だいたいこれくらいの長さがいいとか、こういうキーワードが強いというのはわかっている。たとえば、Amazonだったら英語表記かカナ表記か。昔は海外のAmazonの発表だったら「米Amazon」表記だったが、何回やってもカタカナの「アマゾン」に勝てない。ただ米国発表だとわかるような要素はタイトルに残そうとか。そういうことをテストしながら週次の会議で(話している)。見出しのABテストは新聞社さんだとあまりできないという話を聞いたが、我々はすごく重視している。編集部のなかでも記事の校正をして「この見出し、どうなんだろう」という話はよく出る。「〇〇部長」みたいな見出しがあって「〇〇部長(なんて読者は)知らねえよ」みたいな話とか。「それよりは、この人が伝えたかったのはこうでしょ。括弧でこのコメント抜いたほうがいいでしょ」「でも俺そうは思わないよ」みたいな話になると「じゃあテストしてみよう」とか、そういうことになる。まずこう言い合える、出し合える関係性を作ることも重要だが、結果を出せるということが重要だ。
「データが答えをくれる」とか「データを使えば解決する」というものでは全然なくて、データは話をするための素材でしかない。話のなかのほうが実りがたくさんある。さきほどのメディアの方向性の話も、上司としての褒めるツールとしての側面にしてもそうだ。そういうコミュニケーションの力は確実にある。
Business InsiderはABテストどんなふうにしていますか。
伊藤(Business Insider Japan):Business Insiderは非常に報道色の強いメディアでもありつつ発祥がそもそもニューヨークの媒体なので、経済報道の考え方はアメリカの編集部がやってることを取り入れて考えている。タイトルAB問題はすごく難しくて、新聞社さんによっては一度決めたタイトルを変えるのはまかりならんというところがあるのは知ってますし、私も出版社出身なのでそういう感覚は昔はあったんですけれども、オンラインメディアになってどの伝え方がいいのか(考えるようになった)。さきほどのAmazonの話はまさにそうだと思うが、それまでは編集長だったり上席の人間の感覚値・経験値から決めていたことが、実はそうではないかもしれないことがわかる。これが分析をする良さだ。
ということを前提にしながら、Business Insider(Japan)が立ち上がったときにUSとコミュニケーション取りながらけっこうびっくりしたのが、明確な誤報は当たり前にダメなんですけど、タイトルを変えていくこととか、あるいは原稿の中身をよい方向に変えていくことにはまったくハードルがない。非常に合理的。とくにタイトルについては、間違いは間違いでもし誤報を出してしまった場合は最悪は削除になりますけど、タイトルをどういうふうな書き方にするのが読者に伝わるのか、一番本質的に伝えたかったことはどの書き方が伝わるのかというのは、一回ではわからないと思っている。そういう意味でタイトルABはとても大事だ。やるべきかどうかの議論はまだあるが、よい使い方をするなら絶対にやったほうがいいと思っている。
(タイトルだけでなく)中身についても、原稿を変えるのは日本ではあまりやっていないが、USはけっこうやっている。前後を入れ替えたりもしているし、離脱のポイントがわかったらそこから下を書き換えたりもする。かなりドラスティックだ。最適化をどんどんやっている。合理的にオンラインメディアをするとはこういうことだなと思う。
日本でもたとえば、記事のなかに画像をどれくらい入れたらいいかを議論するが、一般的にオンラインのコンテンツをやっている人たちは「画像をとにかくたくさん入れたほうがいいですよ」と。1スクロール内に1枚以上あったほうがいい。スマホの画面で言うと、1.1枚とか1.2枚みたいな。媒体の特性にもよるが、我々の媒体のようなところだと必ずしもそうとは言えないことがわかってきた。とある画像のポイントで離脱していることがわかったときに、思い切って画像を消すともっと下までちゃんと読んでくれることがわかったりする。これはいわゆる原稿の改変には当たらない。画像を出すか無くすかの話であると考え、こういう調整を入れたりはしている。それによって離脱が減って最後まで読んでもらえるということは、意図した文意の全体が伝わるということなので、そのほうがよいだろうと考えている。
新聞社さんの考えも伺ってみましょう。道新さんの場合どうでしょう。出したあとの記事の見出しや中身をベターにしていくために変更をする作業、これに関するカルチャーどうでしょうか。
生田(北海道新聞社):見出しを変えるはある。やっている。ただ、業務負荷的にやり切れてないという感じだ。いまインプレスさん、Business Insiderさんのお話聞いて思ったのは、変えたときのことがナレッジとして編集局のなかに溜まっていっていないだろうなと反省していた。
中身を変えるのはちょっと難しい。軽微な変更はあるが、どうしても前のフローまで遡って確認してもらわないと新聞社のカルチャー的には難しい。ちょっとできない。
が、そこまでやり切らないと、働き方も変えないといけないと思いますけど。
キメラは支援のなかで、自分のメディアでの強い見出しのパターンを作るといいですよと言っている。各々のメディアによって効く見出しに特性があるからだ。
大東さん、見出しの数字の傾向を分けているのは何なんでしょう。
大東(株式会社キメラ代表取締役社長):見出しが何のためにあるかがすごく重要だ。「CTRが上がるから見出しを変えたほうがいい」ということと「CTRが上がって、さらにエンゲージメントが上がってちゃんと読んでもらえるようになる」ことをしっかり見ることは、全然違うことだ。
NHKさんと「タイトルを見た瞬間に期待値の設定ができてないとダメですよね」という話をしていた。そのタイトルが期待値を設定できているかをどう評価するか(の話になる)。この根本的な考え方が整っているかがそもそもだと思う。
コンテンツの中身がいいことと(同時に)、デリバリーがいいことが重要だ。中身がどんなに良くても、届けたい人にちゃんと届いていなかったら全然意味がない。武器としてタイトルを操れているかどうか。
某新聞社さんだと、LINEのニュースでタイトルをすごく短くして出していた。期待値の設定をうまくやっているし、一般的なWebメディアのコンテンツで考えるような「タイトルでどう導くか」を極端に短いなかでもやるところがおもしろかった。こういうこともありだと思った。デリバリーの道具としてタイトルをどう使うか。それをどう数字で評価するか。
コンテンツの中身とデリバリーを分けて考えることと、メディアのあり方と掛け合わせてどう使うかは学びがありますね。次は、データをどこでどう使うのか。データを判断基準のひとつにはするが、数値が高いからといってすべてのコンテンツをそう変えるのかどうかという話も同時にある。このあたりはデータを「共有する」ところからもうひとつ上の「文化にする」話だ。
道新さんはデジタル推進室のほかに編集部門のデジタルエディターという方々がいらっしゃる。彼らをどう育てているのか。どう取り組んでいるのかお話いただけますか。
生田(北海道新聞社):まず私がいるデジタル推進室が何なのか。社内のほぼすべての局、編集、制作、販売、エンジニア、広告営業などから集めてきて、20人くらいの社内横断組織を編成している。課金・サブスクリプションに関わらずデジタルに関わる事業を統括する。このなかで私は編集出身なので編集との窓口役をやっている。私のカウンターパートになるのがデジタル編集長だ。さきほどの見出しの話や出稿部から集まってくるコンテンツの捌き、バリュー判断などすべてその人が握っている。すごくコミュニケーションの形として組織としてわかりやすい。
私も忙しいのでなかなかいろいろな出稿部を回っていられない。デジタル編集長のところへ行って「いまどういうことに困ってますか」とか「今日の数字こうでしたね」と会えば数字の話をするみたいなことをしている。そうすると「こういうことしてほしい」とか「この記事なんで読まれなかったんだろうね」「これもっとプッシュしたいんだけど」と話してくれる。それを私が持って帰ってきて喋っていると、周りで聞き耳を立てている同僚が「これWeb広告回しましょうよ」と言ったりする。みたいなことは日常茶飯的にやっている。
デジタル推進室のなかでも日次でKPIミーティングをやっている。それぞれの担当者がWeb指標に関わらずいろんな報告をする。いろんな数字がどうしてこうなったのかを担当者が説明してくれたり、担当者がわからなかったらみんなで考えたりということをやっている。
大東(キメラ代表):定性を捉えるために定量を使っている。数字を見るためにデータを見ているのではなく、その先の行動を常にイメージして話す人が多い気がする。絶対的に数字がどうかというより、そこから何が想像できるか。妄想タイムを毎朝やってるんですもんね?
生田(北海道新聞社):そうですね。妄想タイムはちょっとひどい言い方ですけど(笑)。10分とかでもみんなでひとつの物事を考える時間は大事だし、数字を前提に話すといい。
定性を定量で測るというのは、NHKさんもかなりトレーニングしてこられた。定性のテーマやトピックをどう出すのか。どう束ねて数字の話に落とし込んでいるのか。
松枝(NHK):エンゲージメントを大事にすると言っても、エンゲージメントという言葉もなるべく使わないようにしている。要するに、クロ現とかNスペとか観たあとの読後感と同じようなものをネットでやりたいよねと。そうするにはこういう数字が上がると似たことなんだよ、みたいな感じで説明するようにしている。
成したいもの。これも大東さんから最初の頃に散々言われて。「どこに行きたいんですかNHKさん」って。そういうことをずっと毎月言われてて、みんなが見える・わかる話で例えて言って、「この指標でいうとこう」みたいなふうにもってくと、割とイメージがつきやすいというのはある。
村堀(NHK):やっていくなかで「村堀くん、これ分析してどうにかしてよ」ということが非常に多い。そういうときに私も必ず「そもそもこの枠で、このコンテンツで何をしたいんですか」ということを必ず聞いている。そこから組み立てて考えていって「じゃこういう指標があって、ここを目標にするのはどうですか?」と、指標をまず相手に合意してもらわないとなかなか次に繋がってこない。
うちはとくにチームがたくさんいてそれぞれの文化や想いがあったりするので、それを大事にしながらデータを練り込んでいく進め方がいいと考えている。
(Q&Aへ:ここは動画でご覧ください)
最後に、登壇者のみなさんから今日の感想を一言ずついただけますか。
伊藤 有(Business Insider Japan 編集長):今日ご参加されているみなさんからもむしろいろいろ聞きたかった。メディアによって課題感が違いすぎる。それを話したほうがいい。私はBusiness Insiderの編集長もやりつつインターネットメディア協会の理事もやっているが、メディア横断でいまの課題の向き合いをやると解決するものがあったり、あるいは実は同じ問題を抱えていたりする。これからの時代の伝え方や生き残りを考えるとそういうコミュニケーション取ったほうがいい。今日かなりいい機会になったんじゃないかなと、かなり楽しみながら聞いていた。
うちも有料課金をやっているので、さきほどのコンバージョンのところの話(Q&Aで取り扱った話題)はかなり思うところがある。コンテンツのコンバージョンを、コンテンツの改善によって追求するというのはひょっとしたら難しいかもしれない。稼げるというと言い方よくないですけれども、課金をしても読みたいジャンルの記事とかカテゴリーの記事、コンバージョンには繋がらないけれども媒体価値を保ったり、社会に必要とされている情報だから出すっていうのを分けて考えたほうがいいかもしれない。うちの課金コンテンツでも数字稼ぐジャンルとかというのもある程度見えてきているが、それを全体に広げようとするというのも非常に難しい。むしろ稼げないかもしれないジャンルにがんばっててもしょうがないじゃないかという感覚で見ている。
松枝 一靖(NHK メディア戦略本部チーフプロデューサー):みなさまの話を聞いて、違いと共に共通項もあってすごくおもしろかった。今日は新聞社の方が多いのでふたつだけお伝えする。
一番最初に言ったように、とにかく量を見るのがすごく大事だ。ピッチャーでいう投げ込み、バッターでいう素振りみたいなところがある。やっていると感覚は掴めてくる。アナリストに頼みたいとかそういうオーダーをされる方もいるが、全然そういう高いレベルのことは必要ない。作り手が自分たちの感想や感覚を持ちながら数字を見るのが大事な作業だ。Chartbeatでもどんなツールでもいいが、定時に毎日見ることをひとつお勧めする。
ニュース系をずっとやっていて思うのは、改善の費用対効果が一番いいのはタイトルとサムネイルだ。そこを全力でまずがんばってみるというのが費用対効果としては抜群にいいし、他社さんも含めて参考にするものがいっぱいある。そこからやるのをお勧めする。なぜなら、そこで結果が出るとみんながついてきてくれるからです。
質問が来ています。「デジタルに関心を持たせる飴については勉強になりました。一方、鞭にあたる人事考課についてはみなさまの会社で設定なさっていますでしょうか。答えずらい質問かもしれませんが」
伊藤(Business Insider Japan):おそらくどれだけPVやコンバージョンが取れたかを評価制度に入れるのかどうかの話だと思いますが、うちの媒体の場合、そういうふうな直接的に結びつくのは入れていない。とくに報道系のメディアの方だとけっこうやりづらいと思う。なぜなら、その記者の持っているジャンルによって、非常に数字が稼げるジャンルとそうでないジャンルの人がいて、それはその人の技量の良し悪しではない。うちの場合だと、その記者のポテンシャルとして「あなたの期待値はこれくらいですよ」というふうにそこを追求してもらうほうがいいんじゃないかな、と。全体に同じ数字で線を引いて、段階を設けて評価するというふうにしないほうがおそらく綺麗に回るんじゃないか。
ありがとうございます。一例の答えとして参考にしていただければ。
感想戦のつづきを。
臼田 勤哉(Impress Watch 編集長):データというか、読者の反応を見てもらうのにこんなに苦労しているというのがすごく衝撃で。最近、新卒の面接をやっていて「いまの仕事なにがいいんですか?」と訊かれると「日々の反応がわかるのが楽しいんですよ」と話している。つまり、いま何が流行っていて、こういうものをやったら受けるんだ、こういうことがいま来てるんだ、こういう人がいまいて活躍されてるんだ、そういうことの反応がユーザーの反応でダイレクトにわかる。
そこを見るのがメディアの仕事に、我々の会社に、そういうカルチャーがあったんだなと。自分は楽しいと思っていたが、あまり気づいていなかった。新聞社さんやNHKさんのような分業化された専門家チームとは同じメディアでも全然違うんだということに気づいたというのは、僕のなかではおもしろかった。
あと本当に、みんながデータを見ているもの。PVなんか当たり前に見ているものだと思っていて、自分のチームは間違いなくそうだが。ただそれが会社、インプレスのWatchシリーズ15媒体くらいあって「本当に見てるのか」とちょっと不安になってます(一同笑)。そこは「みんなやってる?」って話を改めてやってきたいなと思ってます。
あと今日、「データを見てもらう」って話、実は僕あんまりピンと来てなかったんですね。打ち合わせのときも「別に、Chartbeat見てるだけですよ。大したことやってないですよ」みたいな。まさにそこに読者がいてどういう反応してるのかっていうのを見たいだけなんですよね。あくまで編集記者としていま何が流行っていて、自分がやったものに対して少なくとも見てる人はこう反応してるんだというのをオープンにしていくことは、やったほうがいいことだなと改めて思った。ここがうまくいくといいコンテンツが世の中に出ていくのかなと思ってました。
村堀 等(NHK 報道局 エキスパート):みなさんのお話どれも参考にさせていただきました。データ分析とかデータ活用ってその文脈で語られることが多い気がするが、個人的にはどちらかというとマネジメントの話だと思っている。とくに、うちなんかはそんな組織文化なんだ、意外だという話がたくさんあったが、まさにマネジメントによる組織変革であって、むしろマネジメントができている会社であればデータ分析っていうのは自然とできるものなんじゃないかと、改めて思った。
マネジメントには人に動いてもらう側面がある。それぞれの相手はひとりひとり個性のある人間だ。そことの向き合い方をシェアしていくと、自分のところで似たような状況が起きたときにどう対応したらいいのか、そこに展開してもっていける。今日参加させていただいていてありがたかった。
生田 憲(北海道新聞社):みなさんありがとうございました。全然立ち位置の違うみなさんとご一緒させていただいて、うちの会社でまだやらなきゃいけないことがたくさんあるなぁと改めて思った。
最後、編集権の話を忘れていた。編集局にコンテンツのデリバリー、届け方の話というのはするが、コンテンツそのものの中身の話は一切しないようにしている。そこに壁を作ってもっていないといろいろ破綻する。
(Q&Aの)最後の質問で「読ませたい記事と読まれる記事が違う」という話があったが、あれはまったく課題じゃない。読ませたい記事があるのは報道やってんだから当たり前にあるし、それは持っててもらわなきゃ困る。一方で、読まれる記事に編集局が関心を持っていないかというとそんなことはまったくない。我々がずっと培ってきたニュースバリューと全然違うものが急に読まれたりすると、それはすごくおもしろいことだ。さきほど臼田さんがいろいろ試してみるって話をされてましたが、そういうものを「こんな報道もできる」「こんなニュースも作れる」と提案していくかたちでサイトを盛り上げていくといいんじゃないか。価値観を壊すんじゃなくて、データで民主化するというのがいい。
大東(キメラ代表):今日はお忙しいなか、みなさんありがとうございました。各社考え方は違うが、データ使って云々よりもメディアとして成し遂げたいことは何かだと思う。それを測るために何を指標をするか。「他所がこうやってるからこう」っていうのは参考にはなるが、当てはまらないケースのほうが多い。そもそもデータを使う前にメディアとして成し遂げたいことは何かというのを徹底的に突き詰めてもらえたらいいんじゃないかと思います。