分人という考えかたがある。個人が対人関係や環境ごとに異なる人格をもつことをさすようだ。日本の小説家・平野啓一郎さんが著書で扱っている。
さて話は変わるが、あなたは読もうと思った記事が何か別の表示によって遮られてしまったことはないだろうか。画面いっぱいに広告が表示されたり、メールアドレスを使ってログインしろと言われたり、利用料金を催促されたりする場面だ。個別のケースであれば取り立てることではない。しかしあまりに悲惨なウェブの状況を見かねたのか、米国・カリフォルニアのライターElizabeth Lopattoは「メディアビジネスの苦労には同情するが、私はただ、読まないことは読むことよりも簡単であり、ログインするよりもずっと簡単であるという当たり前のことを指摘したい」という。
このニュースレターMagnetを受け取っているみなさんはすでにわたしが何を言いたいのかわかっているのではないだろうか。Googleをはじめ、ニュースレターやヨガ教室にいたるまで、KPIを達成しようとするポップアップによって、ウェブの体験は悲惨なものになっている。本心を言えばElizabethの記事をそのままみなさんに読んでいただければと思うのだが、難しいことは承知しているのでリンクを置いておくに留める。原文は英語だが、2023年のいま、無料で使える翻訳ツールはいくつもある。
なにもわたしは嫌味を言いたいわけではない。認知は大事だ。有益な情報は知られていい。モーダル表示が適切な場面はある。購読する価値のあるメディアはあると信じているし、メディアやライターもほかの職業と同じく食べていかなければならない。わたし自身もよりよく価値を知ってもらうためのアドバイスは無数にしてきた。しかし少なくとも、ホラー映画が苦手な友人に無理やりグロテスクなシーンを見せるのは気が引けるだろう。なにより個人の体験として、ポップアップに埋め尽くされるウェブがいいものとは思えない。ウェブで美しいものをつくることは可能だし、無理やり見せるような方法でなくても読者をみつけることはできる。
もし、わたしがしつこくポップアップを勧める場面に遭遇したら、この原稿で殴ってほしい。