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Magnet Newsletter by Ximera, Inc. No.014

3月です。

会社にお勤めのみなさんにとっては異動の季節でしょうか。異動や組織の変更はそれぞれにドラマがあります。新天地で気持ちを一新する方もいらっしゃれば、心残りを感じる方もいらっしゃるでしょう。そういう気持ちの発散として、夜の会を設けることもあると思います。しかし、まだまだ3月の朝晩は冷えます。帰りの道では羽織ものをお忘れなく。見えない4月から先を思いつつ、いつもながらの言葉となりますが、温かくしてお過ごしください。

さて、Magnet Newsletterをご覧いただき、ありがとうございます。今回はサービス提供側として考えつづけたいポップアップやメールアドレスの取得に関してのトピックを1本。クリエイターコマースの課題解決をするスタートアップ事例の紹介を1本。合計2本をお届けします。

目次|Magnet Newsletter by Ximera, No.014

  • 読まないことは読むことよりも簡単であり、ログインするよりもずっと簡単である

  • 三方良しの購入体験を実現するクリエイターコマース

Letter Column

読まないことは読むことよりも簡単であり、
ログインするよりもずっと簡単である

分人という考えかたがある。個人が対人関係や環境ごとに異なる人格をもつことをさすようだ。日本の小説家・平野啓一郎さんが著書で扱っている。

さて話は変わるが、あなたは読もうと思った記事が何か別の表示によって遮られてしまったことはないだろうか。画面いっぱいに広告が表示されたり、メールアドレスを使ってログインしろと言われたり、利用料金を催促されたりする場面だ。個別のケースであれば取り立てることではない。しかしあまりに悲惨なウェブの状況を見かねたのか、米国・カリフォルニアのライターElizabeth Lopattoは「メディアビジネスの苦労には同情するが、私はただ、読まないことは読むことよりも簡単であり、ログインするよりもずっと簡単であるという当たり前のことを指摘したい」という。

このニュースレターMagnetを受け取っているみなさんはすでにわたしが何を言いたいのかわかっているのではないだろうか。Googleをはじめ、ニュースレターやヨガ教室にいたるまで、KPIを達成しようとするポップアップによって、ウェブの体験は悲惨なものになっている。本心を言えばElizabethの記事をそのままみなさんに読んでいただければと思うのだが、難しいことは承知しているのでリンクを置いておくに留める。原文は英語だが、2023年のいま、無料で使える翻訳ツールはいくつもある。

なにもわたしは嫌味を言いたいわけではない。認知は大事だ。有益な情報は知られていい。モーダル表示が適切な場面はある。購読する価値のあるメディアはあると信じているし、メディアやライターもほかの職業と同じく食べていかなければならない。わたし自身もよりよく価値を知ってもらうためのアドバイスは無数にしてきた。しかし少なくとも、ホラー映画が苦手な友人に無理やりグロテスクなシーンを見せるのは気が引けるだろう。なにより個人の体験として、ポップアップに埋め尽くされるウェブがいいものとは思えない。ウェブで美しいものをつくることは可能だし、無理やり見せるような方法でなくても読者をみつけることはできる。

もし、わたしがしつこくポップアップを勧める場面に遭遇したら、この原稿で殴ってほしい。

Ximera Media Next Trends #46

三方良しの購入体験を実現するクリエイターコマース

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第46回となる今回は「三方良しの購入体験を実現するクリエイターコマース」を取り上げます。

2021年にコロナ禍でオンライン購入が一気に増えたこともあり急騰し、やや戻してきましたが、ブランドにとってのユーザ獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)は依然として高いままです。米国でのInstagramのアプリ1インストールあたりの広告単価(CPI: Cost Per Install)を見ると、2020年2月は1.13ドル(約150円)でしたが、2023年2月は4.62ドル(約615円)。世界的に景気が悪いため広告出稿が控えられ、ピークに比べて下がっているものの以前と比べて高い状況となっています。

BigTech 5社の2022年の株価の下落割合推移 / PortfloliosLab

Instagramのアプリインストール単価は高くなっている 出典: revealbot

SEO(検索エンジン最適化)、SEM(検索エンジンマーケティング)など従来からある顧客獲得の手法はあらゆる企業で行われているため、非常に競争が激しいです。たとえばGoogleの検索結果で自社を上位に表示させるために広告を使う場合、同じキーワードに対してオークション形式で入札されるため、相応のコストがかかります。不動産と同じで、人がたくさん集まる場所やキーワードは高額になりやすく、結果としてこれがCACを上げることになってしまいます。またオンライン広告は実質的にAlphabet、Meta、Amazon傘下の企業で寡占されているため、SEOの効率が良くなる、もしくはSEMの費用が下がるメディアを求めても他に存在しません。

こうした状況に対してブランドはCACを下げるため、広告ではなくインフルエンサー/クリエイター(本稿では「クリエイター」という呼称に統一します)へ依頼して商品を取り上げてもらう、いわゆるインフルエンサーマーケティングが数年前から盛んになっています。

仮想通貨を代表するBitcoinの価格は2022年で大きく下落 / Google

インフルエンサーマーケティングの市場は伸び続けている(2022年で164億ドル(約2.3兆円)まで成長)出典: The State of Influencer Marketing 2022

人々が興味を持っているさまざまな領域について、専門的な知識を持ち商品をわかりやすく説明してくれるクリエイターがきっかけでユーザが商品購入に至るフローは、インフルエンサーマーケティング市場が年々伸びていることからもわかる通り、よりブランドにとっての重要度が増しています。

一方でインフルエンサーマーケティングにも課題があります。インフルエンサー/クリエイターは、いわゆる案件と呼ばれる商品紹介をソーシャルメディアで行ったり、アフィリエイトリンクへ誘導することで収益を得ていますが、多くの場合以下の点により、ブランドおよび購入してくれたエンドユーザとの継続的な関係を築けずワンショットになりがちです。

  1. クリエイターのフォロワー数や期待視聴数に応じて事前に定められた固定金額の前払いモデルであるため、クリエイター側からすると1度商品を紹介してしまえば、ブランドとの関係性は終わってしまう。多くのクリエイターは本当に購入にいたったのかなどのトラッキングもしないうえ、継続的にそのブランドや商品を紹介するモチベーションもない。

  2. 成果報酬型のアフィリエイトや割引コード提供の場合、不特定多数に配られることが想定されているため、Amazonやブランドのストアに遷移し、どのようなユーザコミュニケーションにより購入に至ったのかブランド側はわからない。またクリエイターもリンク遷移先のエンゲージメントまでトラッキングするモチベーションもない。

このように現状のインフルエンサーマーケティングでは、ブランドが期待していることとクリエイターが期待していることが一致していないことで、エンドユーザ、クリエイター、ブランドいずれも最適な体験を提供できているとは言えません。

そこで近年エンドユーザとクリエイターとブランドの目的を一致させる三方良しの購入体験を提供し、課題を解決しようとするスタートアップが登場しています。本記事では特にEC領域でその課題に取り組むスタートアップを紹介したいと思います。

レシピ&食材特化のソーシャルコマース: Jupiter

上記の課題解決をはかるスタートアップの1つ目がJupiterです。Jupiterは、クッキングクリエイターが提供するレシピと、レシピに使われる食品を販売するスーパーマーケットをマッチングすることで、エンドユーザが気に入ったレシピに必要な食材を近隣で購入できるソリューションを提供しています。

JupiterによりフードクリエイターがInstagramに掲載したレシピと必要食材を購入まで一気通貫の体験を提供できる 出典: Jupiter

クリエイターは自分のレシピの公開とそれに必要な食材をキュレーションできるストアを自身のブランドで作ることができます。構築したストアの商品はInstagramショッピングと連動し、Instagram上でクリエイターがレシピを公開するとそれに紐付けられたクリエイターストアの商品への購入リンクがフォロワーに表示されます。

フォロワーは購入リンクから遷移した先で郵便番号を入れると近隣の食品小売店(SafewayやTargetなど全国チェーンのスーパーマーケットがほとんど)で手に入れることが可能な食材をオンライン購入し、店頭で受け取ったり、自宅へ配送してもらうことができます。

食品小売店はさまざまな食品を扱っており、1つ1つの商品をPR案件としてクリエイターとマッチングさせるのは非常に骨が折れるうえ、多くの場合は費用対効果がでないので実施できないと想定されます。しかし、Jupiterを使えば労せずさまざまなクリエイターに販売している食品を使ってもらうことができます。また、クリエイター経由でリアクションやコンバージョンにいたったフォロワーの情報についてダッシュボードが提供されており、どういったクリエイターやオーディエンスにどのような食品がヒットしたのか/しなかったのか分析することができます。

クリエイターはストアが自身の冠がついたものとなることや、商品が販売される毎にレベニューシェアを得ることができることから、継続的に再現可能なレシピとその材料を手に入れることができる場を提供するモチベーションが生まれます。これがフォロワーやブランドとワンタイムの関係になりがちな既存のインフルエンサーマーケティングと差別化される点になります。

Jupiterは2022年3月にKhosla Ventures、NFX(実績のあるシリコンバレーのベンチャーキャピタル)をリード投資家とするSeedラウンドにて、530万ドル(約7.4億円)の資金調達を実施しており、今後もさらなる拡大が期待されます。

クリエイターホワイトレーベルコマース: Flagship

上述のJupiterはレシピと食材というマーケットで食品小売店とクリエイターをマッチングさせるモデルでしたが、メーカー側とクリエイターをマッチングさせているのがFlagshipになります。

Flagshipによってクリエイターとメーカーは以下のことが実現できます。

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