Copy

Newsletter by Ximera, Inc. No.022

人間によるキュレーションがMediumのサブスクリプションを勢いづけている

7Q連続での減少、からの購読者増加。「数字に惑わされて、人間の読者のことを考えていなかった」

ニュースサブスクリプションの雲行きはどうだろうか。ロイター研究所が6月に公開したレポートによれば、世界中でニュースサブスクリプションの成長が横ばいになっているという。DIGIDAYはそのレポートを紹介する記事のなかで、サブスクリプション件数が増加しているニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、アトランティックの数字に「悪いニュースばかりではない」と添えたものの、「回答者の42%は、何を言われてもお金を払う気にはならないと述べている」と記事を締めた(日本版米版)。


このままでは気分が滅入る。


そこで今日はニュースではないものの、編集者と専門家によるキュレーションを重視しているブログプラットフォーム「Medium」、そのサブスクリプションの近況を書いてみたい。


近年はMediumもメディア業界にあって苦しい思いをしてきた。2018年、Mediumは自社で編集者を抱え、プラットフォーム内メディアを運営する取り組みを推し進めた。その結果、購読者数は好調に伸びていたという。しかし2021年には前CEO、エヴァン・ウィリアムズが「ヒット率は低く、経済的にうまくいくために必要なところまでは到達していない」と語ったことがいくつかのメディアで取り上げられた。購読者数は2021年のQ3以降、5Q連続で減少(厳密には7Q)。2022年7月、EVはCEOを降板。2021年2022年とつづけてのレイオフ。2022年のQ2,Q3は購読者数が大幅に減少した。EVからバトンを受け取った現CEOトニー・スタブルバインは先月8月の自社イベント Medium Day 2023のなかで「13ヶ月前はMedium史上最悪の月だった」と振り返っている。


暗いニュースはここまでだ。よく耐えた。下のグラフを見てほしい。

イベントでスタブルバインCEOのキーノートに使われたスライドの一部。Mediumの購読者数の増減を示している。21年Q3以降減少している購読者数が、22年Q4で減少幅縮小、23年Q3では増加を示している。


直近3ヶ月のグラフもある。8月中旬に公開された数字のため、8月の数字は予測である。

6月:3万5000人、7月:4万7000人、8月は10万1000人(予測)の購読者増である。くりかえすが、8月の数字は予測だ。しかしながらこのキーノート時点で8月は過去最高を記録しているとの発言がある。これほど好調であれば予測を交えてでもCEOとしてこのグラフを世に発信したくなるものだろうか。このスライドにスタブルバインCEOが添えた言葉を引用する。

さらに最近の数字もお見せしたい。それは、情熱的で、思慮深く、正直で、心のこもった文章を書き、ほかの人の世界に対する理解を深めることを真摯に目指す会社が存在し、成功することは可能なのかもしれない、ということを証明するものだからだ。それは可能なのだ。

Tony Stubblebine - Medium CEO

低迷の原因についてはたくさんあるので単純化したくないと前置きしつつも、数字に惑わされて、人間の読者のことを考えていなかったと振り返っている。Mediumは人々が読みたいと思うものをみつけること、その数字を改善しようとしていた。指標としては読了数を採用していたようだ。しかしその指標が前進すればするほど購読者は離れていった。グラフのとおりだ。


ほかのプラットフォームと同じく、Mediumも当初はアルゴリズムを重視するアプローチをとっていた。YouTubeやTikTokと非常に似たアルゴリズムだ。しかし、これは読者に言わせれば「たくさん読んでいるけれど、本当に時間を有効に使っているとは思えない」らしい。これには心当たりがある。ソーシャルメディアを眺めているとき、そういう感覚ではないだろうか。


そして、Mediumではあることが変わった。損失を止める方法を考え出し、さらに最近では、再び成長する方法を考え出した。Mediumはアルゴリズムに人間のキュレーションを組み込んだのだ。

Mediumのキュレーションシステム:ストーリー→専門家推薦者→メディア・キュレーター→アルゴリズムによるキュレーション / The State of Medium

Mediumではすべての記事をアルゴリズムがそのまま配信するのではない。1. Mediumの専門家コミュニティがキュレーションし、2. それらの記事をMedium社内のキュレーターが品質と内容の基準を高く保つためにダブルチェックする。この両方をパスした記事だけがキュレーション(ブースト)され、Mediumのアルゴリズムが特別に扱う。


Mediumのシステムでは、記事が読者に優先的にキュレーションされる配信の仕組みをブーストと呼ぶ。このガイドラインも非常に興味深いのだがここでは割愛する。編集・編成に携わる方には一読をお勧めする。


数字を観測してみる。このキュレーションを経た記事は、読者がクリックする確率が3%低いのだという。おそらくMediumの平均かなにかとの比較だろう。彼らがキュレーションしたい記事を書くのは、見出しのオプティマイズに慣れたマーケターやライターばかりではない。ここで重要なのは、読者がキュレーションされた記事を読んだあとは購読者になる可能性が2倍高いということだ。CTRはマイナス3%、だがCVRは2倍になる。

ここから読み取れる教訓は、これまでにも聞いたことがあるだろう。誰かが読みたいと思うものと、誰かがお金を払って読みたいと思うものは違う。「こうして私たちは、ようやく、ようやく、時間を有効に使うというこの高いハードルを満たすキュレーションシステムを構築できたことを知るのです」。スタブルバインCEOの言葉である。


最後にもうひとつ、紹介したい教訓がある。彼の言葉を引用する。

まあ、この会社を立ち上げた人たち、この11年間経営してきた人たち、そして今では私でさえも、私たちはこの会社を見てきて、いろいろなことを見てきた。本音を言えばね。私たちが見てきたものは、好きではなかった。今回は違うものを見たかった。過去からの教訓のなかで、私たちがほかのインターネットから得た主な教訓はこれだ:

The State of Medium / アテンションはメリットではない。

Tony Stubblebine - Medium CEO

記事はここでおしまいです。
ほかにもメディア運営に役立つ記事を用意しています。
キメラのコンテンツをぜひお尋ねください。

Magnetを下までご覧いただき、ありがとうございます。


ここ数回はトラフィックについてのリサーチをお送りしていましたが、今回は趣を変えて、人間のキュレーションの価値についてMediumを例に書いてみました(過去のMagnet Newsletter)。このニュースレターを読んでいらっしゃるみなさんはメディアで働いている方が多いので、人間によるキュレーションは言うまでもなくされているかと思います。


今回のMediumは厳密に言えばアルゴリズムとの合わせ技ではあるのですが、それでもその後の購読が2倍になるというのは、人間の、数字にはできない何かは(今はまだ)存在し、それがメディアの発揮する価値には含まれている。そうわかるのは、少しうれしいのですね。わたしたちはどうしても人間なので。


Mediumのしていることは、新しいことではありません。ですが、コンテンツの制作に関わる多くの人が信じたいものを愚直に追いかけている。それもテック企業が、です。そんなところにも、ほかのプラットフォームやメディアにない立ち位置だと思いながら眺めています。Medium DayのキーノートはYouTubeMediumですべてご覧になれます。


9月も半ば。夏はもうおだやかに薄れていくようです。あなたはしっかり。お元気で。

Making a better world for readers,
creators and publishers.